第3話 契約と愛憎
「あなた達って……似たもの同士ね」
二人を知る人は、その言葉をよく吐いた。
「容姿が」では勿論なく。
「性格が」でもなかった。
物言いは普通で、ありきたりな生活。何が似ているのか、何かそう言わせるのか。二人には皆目、見当がつかなかった。
猫が好き。犬が好き。
電車が好きで。バスが好き。
珈琲を好み、紅茶を好んだ。
冬が好きなら、夏が好きだった。
やはり見つけることが出来ない。
「もう、あなた達は……そういうのじゃないのよ」
そういうのってなんだ?
二人は同時に首を傾げた。
今なら分かる。きっとこういう所なのよね。
私は彼の残したお金に、手をつけるのが怖かった。繋がりが無くなる気持ち。それと罪悪感なのだ。
彼の家族は私を良く思っていなかった。
育ちと学歴。見た目。どれを取っても気に入らない対象だった。それを私は知らないフリをしていた。相手は、こちら側の全て言葉の分からない生き物だと、そう思うようにしていた。
彼の葬儀のあと。
「これにサインを書いて頂戴! 貴女はもう、うちとは関係ない人間として生きてちょうだいね! 分かるわよね? この言葉の意味」
そう彼の親は、三行半を叩きつけるように誓約書を私に渡してきた。冷たく見下す目と無駄に温かい指先が私に触れ、背筋にビリビリと痛みを感じ、寒気がした。
それなのに、私の心は微笑を浮かべていた。
別にあんたらと生きるつもりはないのよ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます