第3話 契約と愛憎

「あなた達って……似たもの同士ね」


 

 二人を知る人は、その言葉をよく吐いた。


「容姿が」では勿論なく。

「性格が」でもなかった。

 物言いは普通で、ありきたりな生活。何が似ているのか、何かそう言わせるのか。二人には皆目、見当がつかなかった。


 猫が好き。犬が好き。

 電車が好きで。バスが好き。

 珈琲を好み、紅茶を好んだ。

 冬が好きなら、夏が好きだった。


 やはり見つけることが出来ない。


「もう、あなた達は……そういうのじゃないのよ」


 そういうのってなんだ?

 二人は同時に首を傾げた。


 今なら分かる。きっとこういう所なのよね。


 私は彼の残したお金に、手をつけるのが怖かった。繋がりが無くなる気持ち。それと罪悪感なのだ。

 

 彼の家族は私を良く思っていなかった。


 育ちと学歴。見た目。どれを取っても気に入らない対象だった。それを私は知らないフリをしていた。相手は、こちら側の全て言葉の分からない生き物だと、そう思うようにしていた。


 彼の葬儀のあと。


「これにサインを書いて頂戴! 貴女はもう、うちとは関係ない人間として生きてちょうだいね! 分かるわよね? この言葉の意味」


 そう彼の親は、三行半を叩きつけるように誓約書を私に渡してきた。冷たく見下す目と無駄に温かい指先が私に触れ、背筋にビリビリと痛みを感じ、寒気がした。


 


 それなのに、私の心は微笑を浮かべていた。


 別にあんたらと生きるつもりはないのよ。

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