第5話ソフィアと弟4
「物語の主役、正義の味方と言う意味でなら知っていますがそうではないのでしょう?」
「あぁ、この国の隣、オルステッド王国が呼び出した15人の少年少女のことだ」
「15人ですか。勇者が大勢いるというのはどうなんでしょう?」
ソフィアの知る、知識は小さなころにメイドに読んでもらった本の知識でしかない。1人で、または仲間を連れて勇者が魔王やドラゴンを倒すのだ。魔王はともかくドラゴンが元は何の鍛錬も積んでいない田舎の少年が倒せるとは想像がつかなく、ひどく困惑したものだ。ソフィアの言葉にショウゴは苦笑してから
「あぁ、勇者なんて言ってもそれこそ姉さんが言ったような物語から響きの言い言葉を持ってきただけだよ。戦闘兵器、いや実験結果と言った方が正しいかな」
そう言ったショウゴの手中には初めて手合わせした際に出した黄金の剣。窓から入る月明かりに照らされたそれは暗く怪しく光り存在感を現している。
「全員が呼び出された時にはこれを手にしていた。形も色も様々だったが【聖剣】だと言われていた。これは勇者全てに特殊な力を与えた。それで増長なんかするやつもいたんだがな……」
「聞く限りでは人為的に何かしらの能力を付与したようですが、自国の兵に付与させない理由があるのですか?」
少しだけ気になったのでソフィアは質問する。
「あぁ、特殊な魔術によって呼び出した人間にしか【聖剣】は宿らないんだよ。【聖剣】なんて言ってるけどな、これの本当の名前は【エヴォリュシオンキーラモ】旧時代の遺物らしい、これに本来は形はないんだ。何かを使うことで現れる武器らしいんだが、この世界の人間では持つことすらできなかったようだ。結果……俺みたいな異世界人に順番が回ってきたらしい」
「ほぉ、何かとはなんですか?」
「何かが何かなんて俺は知らない。……てか異世界人ってところに反応は?」
ソフィアは不思議そうに首を傾げて
「私も異世界人みたいなものでしょう。異世界からの転生があるのなら、まぁ類似な現象もあるでしょう」
それにショウゴは一瞬驚いて、次の瞬間には嬉しそうな顔で、
「マジでか! え、やっぱ日本生まれ? 通りで年齢に似合わない貫禄だと思ったよ」
「? 二ホン? 聞いたこと後ありませんね。まぁ自分の名前も覚えてないような記憶です」
「そうか……」
ショウゴの反応にまたもソフィアは首を傾げるも、次の瞬間には少し強い口調で
「それよりも、あなたの来歴です。続きを話しなさい」
「お、おう」
ショウゴは一度咳払いをしてから昔を思い出すようにどこか遠くを見つめてから続きを話す。
「俺達が呼ばれたのは14の時だった。全員同じクラスの人間だ。授業中に召喚されたんだが召喚された時には半分以下だったな、まぁ長くなるんで大体で話すけど、男も女も特殊な能力があるって言っても、戦ったこともない奴らばかりだ。まずは訓練をさせられたよ。地獄って言ってもいいほどにな。その後は戦争に参加だ。まぁ戦車みたいな扱いだろうな、訓練の成果と能力を合わせると大体の奴が一騎当千の活躍をしたんだ。活躍が多い奴はそれなりに優遇されたよ、ハーレムなんてのを使ったやつもいたし、広告塔としてアイドルみたいなやつもいた。3年ほどたったころかな、あぁその頃には10人ほどまで減っていたよ。俺は能力が上手く使えなくてな……微妙な位置だったよ。逆にそれで死ななかったのかもしれないけどな」
戦争で油断した者もいたのだろう。反抗的で粛清された者もいたのかも知れない。
「良いように使われていたのですね。全員で反逆を試みたりとかはしなかったおですか?」
「あぁ、当然ではあるけれど安全装置があってな、王族には手を出せないようになってるんだよ俺達は、それにな、活躍さえしてればある程度好き放題できるんだ、みんな反抗する気もなくなって何年かしたら状況を受け入れていったさ」
「それで、何があったのですか?」
ショウゴが今ここにいる、ということは何かがあったということだ。
「反抗する気がなくなってって言ったけど、そうじゃない奴がいたんだよ。俺の幼馴染2人だった。【モデストクラウン】のコウスケと【サンセートル・ヴァイス】のシズカだ。どうやったかまでは分からねぇ気付いた時には王族は全滅。要人を既に掌握済み、勇者でも10人いれば負けるだろう近衛兵は全滅……こう言っちゃ悪いが俺達は正義の味方でもなんでもない、誘拐されただけの実験体だ。人殺しだって沢山したんだ。クーデターそのものは何とも思っちゃいない。そこまでならな……でもあの2人はな……数少ない仲間のクラスメイト達も殺しやがったんだ! 理由を聞いても答えてくれねぇ!」
「話の流れからするに、それで逃げてきたと?」
ショウゴは昔を思い出して興奮してた様子からガラリと変わってひどく落ち込んだ
「……あぁ、そうだよ。俺はコウスケには勝てねぇ、だから逃げた。仲間を見捨ててな……そんで国を超えたはいいが彷徨った挙句に行き倒れてたのを拾われたってところかな。あの国から出てもう1年だ、まだ探してるかどうかは分からないが、ここまでは来ないだろう……」
「ショウゴ以外に生き残りは?」
「……いない。みんな死んだ、俺の前でな。幼馴染だからかな……仲間に誘われたんだよあの2人に、それで俺だけ生き残った。まぁ、それでも他の奴らを殺したことについては許せねぇ……けど勝てねぇ。結局逃げるしかなかった。俺の能力は逃げ足の為にあったんだってな、その時からだこの力がどうして今までうまく使えなかったんだろう? ってくらいに上手く扱える……笑えねぇな……」
そこでショウゴは押し黙る。ソフィアもしばらく沈黙していたが突如立ち上がり、腕輪を剣に変えるとショウゴに切っ先を突き付け、
「敵討ちをすると言うのなら手伝いましょう」
そう静かに言った。ショウゴはその切っ先を見つめて
「巻き込めない。断る」
「ふむ。では保留としましょう」
オルステッド王国の王座には少女が座っていた。見た目は19歳とこの世界で言えば大人なのだが、どこかあどけなさが残るその表情は、やはり少女と表現するのがふさわしいだろう。傍らに立つのは鼻先まで仮面で顔を隠した男だ。マントを羽織り鎧を身に付ける姿は騎士そのものであるが、仮面だけがどこか滑稽でアンバランスだ。諸侯が集い大勢が収容できるこの間も、今は2人しかいない。
「コウスケ、逃げてから使っていなかったショウゴがキーを使ってから半月くらいかしら。位置の割り出しには、もう少しだけ時間がかかる。その時には行ってもらうわよ」
「あぁ、何とかこっちに引き入れるよシズカ」
「でも何も話してはダメよ。ショウゴが真実を知った時、彼の【アクセレレイション】が【エヴォリュシオンキーラモ】を通じてどう作用するか分からない。私は悪い方に向くと思っている。最悪【エヴォリュシオン】が加速する。そうなればあとは落ちていくだけよ。だけど1年前のこともある。何が作用するか分からない他の子たちと同じ様になっているなら、その時は」
「……俺は正直、この世界など、どうなってもいい……また仲間を殺すくらいなら……」
シズカと呼ばれた少女がキッと目を細める。同時にコウスケと呼ばれた仮面の男が、馬車にでも跳ねられたかの様に大きく吹き飛び壁際まで転がる。
「そうね。この世界はどうでもいい。でもね箱庭は決して隔離されている訳じゃないの。過去と未来、右と左、重なり合い、繋がり合う、不安定なものなのよ。私たちの住む日本まで影響が出るわ。【エヴォリュシオン】を使って得られるのは破滅だけよ」
コウスケが何事もなかったかのように立ち上がる。
「それでも過去世界の人間は使ったんだろ?」
「ガソリンってあるでしょ? あれ、すごく危険だと思わない?」
「急に何だい? 危険だとは思うよ」
「でもその危険性って、みんなどれくらい知ってるかしら? 『中には油に火をつけるのは危険』って感覚で危険だと思ってる人もいるかもね。『火をつけると爆発する』って思っている人もいるかも」
「爆発するのは気化したガソリンに火が付くからだろ? 気化してないガソリンなら爆発はしないんじゃないかな?」
「そういうところね。気化してなくても爆轟なんて形で爆発することもあるわ。まぁこういうのは個人の知識でしかないんだけど【エヴォリュシオン】はきっと、そういった個人の知っている範囲で形を変えるんだと思うのよ。さっきのガソリンの話だとね、コウスケが使うガソリンは気化しないと、どんな容器にどんな形で密閉されてようとも爆轟は起こらない。
この国の人間くらいに、物を知らないのなら別に良かったのよ。もしくは物語の賢者のように万物を知っている一門の人物ならうまく扱えるでしょう。過去の人はきっと後者ね。でも私たちは違う。異世界から呼び出された私たちは一番中途半端なの。半端だから鍵を得る資格はあっても正しい開け方を知らないの。それはすごく危険だわ」
それは、まるで彼女が世界の命運でも握っているかのような口ぶりだ。
「シズカは賢い。だから知ったんだとは思う。でも、君が世界を背負うみたいなことはしなくてもいいんじゃないかって……」
「それは違うの。違うのよコウスケ。私なんかじゃ背負いたくても背負えないのよ。私はただ一端を垣間見ただけ。そんな物を背負える人間がいるとしたら、それは逆に危険よ。だってそんな人はきっと世界を壊すこともできるだろうからね」
ショウゴが自室に帰ってしばらくの間、ソフィアは考えていた。それは世界の命運でもなく、明日の天気でもない。
(与えられた能力は自らの力と言えるのか? しかし使いこなせるならそれは自分の力だ。私の技も習い……最終的には盗んだんだが……与えられた力と言ってもいい、少なくとも先達がいない状態で1から始めろと言われ、今の強さまで上がるのは不可能だ。これもまた与えられた力と言っていいのだろうか?)
どこまでが自らの力でどこからが与えられた力なのか、ソフィアの思考はそのことについて行き来するも、これは簡潔な答えはあっても明確な答えはないのかもしれない。
「人の意見を聞いてみましょう。 メイド。ショウゴが使う剣の力は与えられた力と言えますか?」
メイドはそのきれいな顔を少し歪めて
「与えられたと言うよりは可能性を引き出されたと言った方が良いでしょう。しかしそれは歪んだ可能性です。ショウゴ様がアレを多様することはお勧めしません。それは進化ではなく変異です。とても醜いかと」
「言い回しが分かりづらいのですが、まぁいいでしょう。では自身の力と与えられた力の違いは?」
この質問にはメイドは良い質問ですとでも言わんばかりだ。いつもより声が高いのがその証拠だろう。
「過程が大事なのです。突然力に目覚める方もいるでしょう。急に何かが上手くなる方もいるでしょう。でもそれは、それまでの過程があってこそなのです。それこそが正しい自身の力です。過程のない力は醜く、それに慣れれば上に歩むことは不可能になるでしょう」
これには、当たり前だとソフィアも納得だ。努力した結果、得た力でなければそれ以上は望めないということだろうと。
「そう言われれば何を悩んでいたのだろうと思いますね」
「はい。何に悩んでいたのですか?」
「ショウゴにアレを使わせていていいのかと思ったことが始まりだった気がします。が、よく分かりませんね。では私は寝ます。ありがとうございました」
「お休みなさいませ」
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