天使達の采配

「ラファエルが悪魔祓いしようとして、センセエはそれを逃れようとして落ちた……ということ?」


 ガブリエルは眼鏡の奥の目を瞬かせつつ、確かめるように尋ねた。


「そう。でも結果としてサラ様は死んでしまったから、悪魔祓いは成功したわね」

「それはわからないわ。現実には貴女が祓ったわけではないし」


 ラファエルはその指摘に大仰な様子で首を振る。


「その証明は無意味じゃない?大事なのは、私がサラ様を殺してしまったということよ」

「そうかしら」


 食い下がるガブリエルに対して、ラファエルは気取った様子で自論を展開する。


「言霊という言葉があるでしょう。旧約聖書ではルーアハとも言われている。言葉と言うのは大事だわ。「私が」サラ様を殺した。「私は」サラ様の異変に気付いた。「私に」サラ様は微笑みかけてくれなかった。それは私の話の中では、正しいことなのよ」


 威圧感すらある口調に、ガブリエルは黙り込む。

 しかし、ミカエルがゆったり口を挟んだ。


「駄目よ、ラファエル。反則だわ」

「何が?」

「自分の言葉が正しいと言うなら、物事は正確に伝えるべきよ。白居易は古楽府ではなく新楽府でしょう」


 ラファエルは虚を突かれて黙り込んだ。

 他の二人は元から、そこに入り込む言葉を失っていた。

 静かになった礼拝堂に、ミカエルの声が響く。


「私の知っているサラ姉様の死んだ理由を教えてあげるわ」

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