天使の告白 〜私が"彼女"を殺した〜

淡島かりす

序章

 山の上の女学校で、彼女―サラは死んだ。

 自殺なのか他殺なのかわからない。ただはっきりしているのは、彼女が女学生たちに慕われる教師であることである。


「先生が……サラ姉さまがいなくなって悲しいわ」


 学校の敷地の隅にある礼拝堂の中に女生徒が四人集っていた。

 そのうちの一人が言った言葉に、他の三人も同意を示す。彼女達は礼拝堂に並ぶ長椅子に、それぞれ距離を取って座っていた。


「ミカエルの言う通りですわ。私たちほどセンセエを愛していた者はいませんもの」


 三つ編みをおさげにした、黒縁眼鏡の少女が嘆く。


「サラ様が亡くなって、どれだけ悲しいことか」


 長い黒髪の小柄な少女が涙を拭う真似をしながら言うと、色黒の背の高い少女がそれに続いた。


「先生ったら、死んでなお私達を苦しめるんだわ。私たちが何度、先生のお姿を見ては溜息を零し、先生に話しかけられては胸が痛くなる思いをしたか」

「ウリエルったら、そんなことを言うものではなくてよ」


 三つ編みの少女は窘めつつも、小さな溜息を零した。


「でもセンセエのお姿を見る度に、少し恨めしく思っていたのは確かだわ。センセエは本当に素晴らしい方。同じ人間なのに、どうしてセンセエはあんなに美しいのかしら」

「そうね、その通りよガブリエル」


 黒髪の少女は長い一房を摘み上げ、恨めしそうに見ながら呟く。


「朝起きるでしょう。鏡を見ると、そこには平安時代の絵巻物に出てくるのとそっくりな自分がいるの。夏休みなどになると、やってきた親戚なんかが口を揃えて言うのよ。「まぁ、ミヨちゃん。お母さんにそっくりになって」」

「およしなさいよ、ラファエル」


 最初に口を開いた、ミカエルと呼ばれる少女が眉を寄せた。


「此処では本当の名前は言わないように決めたでしょう。私たちは礼拝堂にいる間は、この古臭い女学校の生徒ではなくて、サラ姉さまを崇拝する天使であるのだから」

「ごめんなさいね、ミカエル。私、サラ様が亡くなって動揺しているみたい」


 少しの間、少女たちは黙り込んで礼拝堂のステンドグラスに目を向けた。

 明治時代に建てられた礼拝堂は、元々仮ごしらえのものだった。大正に入ってから暫くして――つまるところ去年のことであるが、新しい礼拝堂が建てられた。

 従って今は使われておらず、彼女達の秘密の集会場所となっている。


「でも先生がどうして」


 色黒の少女は口を開いてから、少し躊躇うように口ごもる。しかしすぐに思いなおすと、言葉を続けた。


「どうして死んでしまったのか、皆さまご存じじゃないの?」


 四対の瞳が互いを探り合うように揺らめく。

 やがて、おもむろに眼鏡の少女が口を開いた。


「えぇ、知っているわ。センセエが死んだ理由。……そうね、皆には話してあげてもいいわ。私たちは同志ですもの」

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