偉い蝶⑤

ひどいことが始まったのは、その次の日からでした。


大きなピンクの蝶が朝起きると、いきなり「何? その汚い色の羽?」と水色の蝶たちにクスクス笑われました。


食事をとろうとすると、「お前我々の食事も全部横取りする気なんだろ? 出て行けよ泥棒!」と水色の蝶たちに突き飛ばされました。


何をするでもなくくつろいでいただけなのに、「この世界一すばらしい飼育箱にお前みたいな奴がいるなんてとんでもないことだ」と水色の蝶たちに怒鳴られました。


自分を偉いと思っている大きなピンクの蝶は、当然頭にきて、ひどいことを言われるたびに、ひどいことを言い返していました。


しかし、前とは明らかに違いました。


この飼育箱にいるのはほとんどが水色の蝶。ピンクの蝶は1匹だけ。

大きなピンクの蝶が言うひどいことに同意してくれる蝶は誰もいません。

ここでは「偉い」のは水色の蝶たちなのです。


何を言っても「偉い」水色の蝶たちを傷つけられないどころか、全員からひどい言葉を返され続け、誰も味方してくれない。

大きなピンクの蝶は、だんだん何も言えなくなってきました。

自分は偉かったわけではなく、この水色の蝶たちのように何か大きな勘違いをしていたのではないかと思い始めました。


それでも、水色の蝶たちの勘違いを指摘する勇気は既にありませんでした。

きっと聞き入れてすらもらえないでしょうから。

きっと、かつての自分のように「偉くない」蝶の声を聞こうとすらしないでしょうから。


大きなピンクの蝶は、そうして一生いじめられ続けたそうです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

偉い蝶 PURIN @PURIN1125

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ