色は匂へど、散りぬるを

儚さの象徴である桜を通奏低音にした、とてもきれいなエピソードです。
日本語を大切に扱う表現の美しさもあいまって、ぜひ一読することをおすすめします。

結末について、あなたが前途ある若者なら「こんなのいや」と思うでしょう。
あなたが皺の刻まれた大人であれば「生ぬるい」と思うでしょう。
最後に口を開いた主人公が言葉を続けられると思うかどうかで、あなたが人間に対してどのくらい期待しているかが分かるかもしれません。

どこにでもありえそうな話の一瞬ずつをそっと繊細に切りとったこのお話。
文章だからこそ封じ込めることができた胸の高鳴りや幻滅。お見事です。

ところで、読了後にふと「色は匂へど 散りぬるを」と口が動きました。
儚い夢など見なければ安らかでいれたのに。
そうはいかないから人生は素敵なのでしょう。

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