第27話 さよなら皆様
朝霧家引越まで、あと一週間となりました。
めいとさんは五月先生の『ヤキモチ』を気にしています。
五月先生は、めいとさんを意識し過ぎてギクシャクしたままです。
カオルさんは、いつまでも進展しないふたりにヤキモキです。
マサトさんは引継云々で、お仕事がお忙しいご様子です。
サトルくんは別れの寂しさを克服し、今は大阪弁の習得に余念がありません。
アポロくんは、普段とまったく変わりません。
ヒロシは……まぁいいか。
「え……」
そんな中、動いたのはめいとさんでした。
「五月様……」
「なんだ?」
「あのぉー、そのですね」
「だからなんだ?」
「えっと、そのぉー、ヤキモチ……がですね」
「げっ、バレた?」
「バレた?」
「あ、いや、その、あの時は急に磯辺が食べたくなってな」
「へ?」
「だから、お前の料理がどうのこうのってことではないんだ。全然」
「磯辺?」
「はは、でも食後だったら、デザート感覚であんこにすればよかったかなー……なんて」
「あんこ……」
「それか、さっぱりと大根おろしのからみ餅がよかったかな……なんて」
「……」
「メイド?」
「そっちのヤキモチですか……」
「うん、そっち。磯辺のほう」
「そのそっちではなくて……」
「え? じゃあ、どっち?」
「てっきり、わたくしを連れて行く朝霧家にヤキモチを焼いているのかと……」
「あ、そっち……」
「わたくしの勘違いでございましたね。失礼いたしました」
「そっちも!」
「は?」
「えっと、そっちも……ちょっとはある」
「ちょっと?」
「あ、いや、それなりにある」
「それなりに……」
「お前がな、ホントに大阪へ行きたいのならそれでいい。ここにいたら、私の世話でほとんど休みもない状態だ。ボーイフレンド作ったり、デートする時間もない」
「そんなこと……」
「朝霧家なら家事はカオルさんとで半分になるし、プライベートも充実するだろう?」
「そんなこと……わたくしはそんなこと……」
「ん?」
「わたくしは、そんな時間などいらないのでございます!」
「い、いらないの?」
「ず〜っとず〜っと、五月様のお世話をしていたいのでございます!」
「いや、ずーっとはどうだろう?」
「ず〜っとでございます!」
「でもそれでは……」
「ず〜っとがいいのでございます。わたくしのご主人様は、五月様だけでございますから」
「そ、そうなのか?」
「あいっ! そうなのでございます!」
上手く噛み合っているのか、微妙に噛み合っていないのか。
ま、これがこのおふたりのいい感じの距離感なのでしょうが。
ともかく、ギリギリでめいとさんの大阪行きはお流れとなりました。
どうにかこうにか、カオルさんの思わく通りになっということ……にしておきますか。
そして、朝霧家引越の朝です。
「ほなめいと、元気でな」
「サトル、まだ大阪弁禁止」
「はい、パパ。めいと、バイバイ、元気でね」
「サトル様もお元気で。たくさんお友達作ってくださいませね」
「うん」
「ご主人様、奥様、お世話になりましたです」
「お世話になったのはこちらのほうだよ」
「ほんとにそうよ。五月先生、めいとちゃん、ありがとうございました」
「ドジッ子メイドはお役に立ちましたでしょうか?」
「ええ、それはもう。それに、とっても楽しかったわ」
「それはよかった」
五月先生の耳元に、カオルさんが顔を近づけてささやきました。
「おふたり、仲良くね」
五月先生はちょっと耳を赤くしました。
「あ、ママ、内緒話ずるい」
「そうです奥様、ずるい」
「いいの」
「さぁ行こう。名残惜しいけど、新幹線の時間があるからこれで……」
「道中お気をつけて」
キュイーン……。
「アポロさんもお元気で。皆様さよならです。絶対、大阪に遊びに参りますからね」
朝霧家とお別れです。
そしてヒロシも……あれ?
「俺、全員に無視された!」
「そんなことない、ヒロシくん。元気でな」
「先生、めいと、お世話になりました」
「お嬢さんとけんかしたら、逃げてきてもいいですよ」
「なんつー別れの言葉だ」
「一泊二千円な」
「先生まで……じゃ、俺も行きます」
「さよならです」
ヒロシともお別れです。
「朝霧家のみなさ〜ん、東京駅までご一緒しますぅ〜」
曲がり角でもう一度手を振り合い、これで暫しのお別れです。
「皆行っちゃったな」
「あい……」
「私たちも帰ろう」
「あい」
「団子買って帰ろうか。みたらし」
「やった、でございます。早く参りましょう。わたくし胡麻にいたします」
「え、胡麻? 団子はみたらしだろう……って、おい、そんなに急いで転ぶなよ」
「大丈夫でございます」
おふたりの並んだ後ろ姿、なんだか……いえ、今はまだやめておきましょう。
ドテッ……。
あ……めいとさん、こけました。
おしまい。
愛糸(めいと)はメイド 五月乃月 @gogatsu_notsuki
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