第26話 五月の気持ち
お洗濯で。
「五月様、またクリスマスツリーに靴下干し……って、干してない……」
「なんだ?」
「いえ、なんでもございません」
お掃除で。
「五月様、またポテチのかすを……って、お机きれい……」
「なんだ?」
「いえ、なんでもございません」
〈最近五月様、ご自分できちんとなんでもできるようになってます。わたくしがいなくなっても大丈夫なようにしているのですね。ちょっと安心ではありますが……なんだかさみしいです……〉
そうですよね、めいとさん。
五月先生の性格では、一日でごみ邸になりかねません。
先生も、それはわかっているのでしょう。
でもねめいとさん、それだけが理由じゃないんですよ。
話をちょっと戻しましょう。
ヒロシがア◯バにお使いに行かされた日の、カオルさんとの会話です。
「先生、単刀直入にお聞きしますわ。めいとちゃんのことどう思ってらっしゃるの?」
「んーっと、よくやってくれてると思いますよ。口うるさいところはあるけれど」
「それから?」
「それから……時々ドジッ子ではありますが、まあ、それはお互い様で……」
「それから?」
「あとは……ん、カオルさんのおかげで料理のレパートリーが増えました」
「そういうことではなくて」
「なくて?」
「ですからね、めいとちゃんはヒロシくんと同い年でしょ?」
「……そうでしょうなぁ、同級生ですから」
「そのヒロシくんはお見合いしたのよね?」
「ええ」
「つまり、めいとちゃんもそういうお年頃ってことです」
「……」
「私ね、このままだったらめいとちゃん、いい人と出会ったり、デートなんかもできないんじゃないかって思うんです」
「……」
「でね、めいとちゃんを、一緒に大阪へ連れて行きたいと思うんです」
「へ?」
「別に、向こうで誰かとくっつけるっていうことじゃないのよ。ただ、こちらにいるより、少しは自由な時間を持たせてあげられると思うから」
「……」
「ですからね、そういう機会も、大阪ではあるんじゃないかって……」
「……」
「……先生?」
「あ、はい」
「そういうこと、考えてあげてくださらない?」
「は、はあ……」
「私の話はそれだけです。お邪魔いたしました」
「お構いもしませんで……」
〈……そんなこと、今まで一度も考えたことなかった! メイドは嫁に行きたいのか? あいつからそんなオーラ、一度も感じなかった! そうか、メイドは嫁に行きたいのか!〉
〈これで少しは、ふたりの仲が進展するかしら。うふふ〉
はい、『うふふ』出ました。
という感じだったのです。
で、鈍感といいますか、不器用といいますか……。
五月先生、カオルさんに言われて、初めてめいとさんを意識しました。
意識し過ぎて、心も体もギクシャクになりました。
軽くパニクった五月先生、気持ちをコントロールできずにいます。
めいとさんとも、なかなか噛み合いません。
結局、最後に出た言葉が『お前も朝霧家と一緒に大阪行っちまえ』でしたから。
まったく、心にもないことです。
〈メイドが嫁に……いや、メイドはメイドだ〉
確かにね。
〈メイドが大阪に……うん、メイドが行きたいのなら〉
まあね。
〈メイドがいない……ヒロシくんもいない〉
はい、そうです。
〈朝起きる。ひとりで起きる……起きられるのか?〉
起きましょうよ。
〈朝食。パンにサラダに……あと何食べたらいいんだ?〉
お好きなものを。
〈執筆して……いや、掃除、洗濯か。んー、これらは一日おきにするとして……〉
いいんじゃないですか。
〈昼食べて、執筆して、買い物行って、夕飯作って……〉
もう夜ですね。
〈燃えるごみが月・木、燃えないごみが水曜日。瓶と缶は……何曜日?〉
きちんと分別です。
「無理ぃーっ!」
そうでしょうね。
「先生、何が無理なんです?」
「ぜーったい、無理!」
「そりゃそうですよ。飯食ったすぐあとに焼き餅なんて……」
あ、そっち……。
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