コメディタッチに隠されたメッセージとは?

スポーツを見ていると選手たちの“反射神経”の良さに大変驚かされる。もちろん打球を追う技術も素晴らしいが、状況に応じ多角的に反応する頭脳は、極限の精神状態の中でも的確な行動を選択するようだ。そういった意味での反射神経も我々観客をおおいに唸らせる。体と体のぶつかり合いも見ごたえがあるが、日本人が好きな“間”を魅せてくれる。技と技、力と力の対決に頭脳戦が加わり、スポーツ勝負とはなんとも奥深い。今年の夏もたくさんのドラマが生まれるに違いない。

さて、本作『ウェイトレス・ミオの異世界スポーツバー「イギーダ」繁盛記』は、主人公ミオの視点で書かれた完全固定の一人称。チームマネジメントに関わってゆく彼女はフィールドプレイヤーではなく裏方的な立場。その目に映る関係者たちの姿。それが物語のキモとなる。

題材は“異世界アメフト”。実は私、ルールを知らない。専門用語も聞いたことがあるかな? 程度の知識しかないのだが、本作はそれでも問題ない仕上がりになっている。競技の描写は話が進むにつれ長くなっていくのだが、“選手が頑張って動いてますよ”的な最低限の情報提供がなされているからだ。物語もフィールド外で展開される部分が多く、結果、読者は政治と世界情勢に関与するスポーツの在り方を考えることとなる。アメフトを知らずとも楽しめる小説となっている。

作者の叶氏、わりとぽんぽんアイディアが出たようだ。全五十話、一ヶ月半ほどに渡る連載の中で、必要に応じて必要な量の設定をつぎたしたあとが見受けられる。老舗うなぎ屋の秘伝のタレのような高等技術だが、読者の反応を見ながら書いたのではないか? ならばそれにこたえた叶氏の作家としての力量にはおそれいる。“アドリブ”の連続だったと思われるが、氏の筆は柔軟に対応しきった。だが、それでも日刊連載ではかなりしんどかったはずだ。叶さん、あんたの作家としての“反射神経”は名選手の域だぜ!

作中……叶氏の考えがわかる箇所がふたつあった。これはスポーツ好きな氏のメッセージだと思うので紹介したい。

試合終了を待たずして、ミオの“役割”が終わるシーンがある。これは“スポーツの主役は選手”という意味持たせのように思える。マネジメントサイドが主役の本作を否定するのならば矛盾ともとれるが、物語を完結させる前ぶれとして素晴らしいと感じた。

もうひとつ。実は“移籍の容認”というのが終盤のちょっとした伏線になっているのだが、これは陽のあたらない場所にいる選手たちを救ってほしいという叶氏の主張なのかもしれない。私も同意見である。控えや二軍にもスター候補はたくさんいるはずだ。彼らのサクセスストーリーを見たい。



水晶玉が見せてくれるスター?たちが、あなたの心にタッチダウン(笑)! みなさんも本作を読んでスポーツの夏にそなえましょう! ラストは秀逸です!

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