第3公演 : 佐倉実姫の緊張

「あたしが、見方千代だよ。」


プリンセスプロダクション社長として現れたのは、何故か幼女だった。


「おい!!どういう事だよ!」


後ろの方から大きな怒鳴り声が聞こえ、咄嗟に振り向いてしまう。


「こっちは死ぬ気で受かって今、ここに来てんだよ!!なのに、社長が子供ォ?ふざけてんのか!?」


短い髪の男性に見えなくもない参加者が大人しそうな女性に宥められている。


「うるさいなァ。ここではあたしが全てを決めるのよ?今すぐ不合格にしてやってもいいけど。」


男っぽい参加者は舌打ちをして黙り込んだ。


ここに、自分の私情で不合格になることを許せる参加者なんていないのではないだろうか。


「見方千代は、あたし。これからスグにオーディション始めるからね。」


・・・。


「あっ、ありがとうございましたぁ!それでは、皆様これから2時間後にまたここでお会いしましょう!」


「それまでは皆様に一人一部屋ずつお部屋を用意させていただきましたのでそちらでお休みください。」


おかしい。おかしいオーディションなはずなのに緊張はまだ収まらない。


「では、番号一番から十番の皆様こちらです。」


ここから部屋までは十分もかからなかった。


「ここが皆さんのお部屋です。自分の番号の書いてあるお部屋にお入りください。」


部屋は広くはなかったが小綺麗で、逆に緊張を掻き立てた。


2時間・・・。どう時間を潰そうか考え、スマホを開いたらその時。


トントン


ドアを叩く音がした。


「すいませーん。」


特に開ける意味もないと思ったが声が焦っているようで、なによりドアを叩く音がうるさかったのでしょうがなく開けてやった。


「なんですか。」


「あれ?あんたあれじゃね?遊佐機プロダクションのなんとか実姫みたいな・・・。」


ドキン・・・っと心臓が大きくなる。


「ワイ・・・っと、私もアイドルやってんだよ。菜花心恋って分かる〜?w」


菜花心恋。たしかアイドルグループ「チェリー♡blossom」のセンターだったと思う。「スター☆ドリームガールズ」程ではないけれど、人気のアイドルだったと思う。


しかし目の前にいる自称、菜花心恋はジャージ姿に無造作に伸びた長い髪。黒目がちで目は大きいが、目の下にあるクマのほうが目立ってしまう。


これが、菜花心恋?


私の知ってる菜花心恋は、いつも笑顔で明るくて、可愛くて誰もが二度見するような素敵なアイドルだったと思う。


正直陰キャ感が半端ない。


「ねぇ、聞いてた〜?」


「菜花心恋はもっとハキハキ喋る。」


え。


「は?」


自分でも予想外の言葉に思わず口を抑える。


「うけるwww私だってすきでアイドルしてんじゃないよwwごめんね、あんたの好きな菜花心恋じゃなくてw」


「で、そんな事どうでもいいのね。ここ、スマホもパソコンも繋がらないんだけど。なんか知らない??」


妙に開き直った自称人気アイドルに、実姫は思い切り舌打ちをかました。

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