第2公演 : 佐倉実姫と戸惑

10時半まであと2分。


つまり、あと2分で実姫の人生を決めるオーディションが始まるということだ。


実姫はよりいっそう体をこわばらせたのだが、もちろんそれはここにいる50人全員がそうだろう。


絶対に勝ちたい。勝たなければいけない。他のアイドルたちには負けられない。ましてやあんな素人になんてー。


ギリリと強く奥歯を噛み締め、爪がくい込むまで拳を握りしめる。


「はぁい!!お待たせしました!!」


ビクリと身体を震わせ、自然と視線が声の方へ向かう。


声は椅子とともに設置されていた、舞台の上のスピーカー聞こえるようだ。


舞台には中学生くらいの女の子がホットパンツとTシャツにパーカーというラフな格好でマイクを持ち、立っている。


所属しているアイドルだろうか。にしては衣装が出来ていない。


「それでは、第・・・3回!スターオーディションを始めたいと思いまーす!!」


始まる…、大きくドクンと心臓が鳴る。


唾液で喉を潤すと、額にじんわりと汗の滲む感覚があった。


「ではまず、プリンセスプロダクション社長である見方千代みかた ちよ様に御挨拶いただきまぁす!!」


見方千代。紹介の通り「スター☆ドリームガールズ」の所属するプリンセスプロダクションの社長である。


それに、彼女がプリンセスプロダクションの社長になったのはたった27歳。それから10年間も『社長』という名義を守り続けている。


ネットの間でも、『若すぎる社長』、『スタドリを超える美貌』などと話題になっているらしい。


「では!早速登場してもらいましょう!」


中学生・・・もとい、司会は会場全員に拍手をするようジェスチャーで促した。


ぱちぱちぱち、乾いた拍手が自身の心臓の音で掻き消されそうになる。


見方・・・千代。これから、私の雇い主になる人。きっと大丈夫。私なら出来るから。


目を瞑り「スター☆ドリームガールズ」として輝き、笑顔でダンスする自分を想像する。


そう。これが本来の私。


パチン、と目を見開き舞台にいるであろう見方千代に目を向ける。


私を、見てー。


「え・・・?」


「さぁ、こちらプリンセスプロダクション社長。」


そこに立っていたのは綺麗で、品のある、思い描いていた女性なんかでは無かった。


確かに可愛さはあるものの、もっと小さく、丸い・・・。


「見方千代様です♪」


所謂、俗に言う『』という名にふさわし過ぎる女の子だったのだ。


この子が見方千代、?


「あたしが、見方千代だよ。」


緊張により押しつぶされそうな心臓と、たった今起きた驚きに挟まれ、実姫は戸惑うことしか出来なかった。


幼女はただ、ニッコリと笑った。

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