05話 ミリアと白馬の王子様②


「アンタ、大丈夫だった?」

「は、はい……」


 差し伸べられた手を握り締め、私はゆっくりと立ち上がる。


「あ、あの、危ないところを助けていただき、ありがとうございました!」


 すぐさま頭を下げてお礼を言う私に対し、女性は何でもないと笑い声を返してくれた。


「別に気にしなくてもいいわよ。冒険者って言っても最近、ああいう荒くれが増えているから気をつけなさい」


 そう言って女性は私の格好を見ると、何かに気づいたように問いかける。


「もしかして、あなたも冒険者?」

「あ、いえ、その。私、冒険者になるために、これからギルドに行こうと思ってまして……」


 私の答えに納得するように頷く女性。

 すると路地の先にある大きな看板の掛かった建物を指差す。


「なら、あそこがギルドだから登録をしたいなら向かうといいわ」

「は、はい。わざわざありがとうございます」


 女性からの進言に再び頭を下げる私。


「お、お嬢様! お待ちください~!」


 その後、すぐさまギルドの方向へ走って向かうと、慌てて爺もついてくる。


「あ、そうだ。もし依頼を受けるなら最初はFランクかEランクの依頼を受けるのよー」


 背後から女性の声が届き、私は「はーい!」と答えながら、そのままギルドの中へと入っていった。



   ◇   ◇   ◇



「お前さんみたいなお嬢ちゃんが冒険者だと? おいおい、ここはお嬢様の観光場所じゃないんだぞ。依頼ならニンジンの引っこ抜きでもやってな」


 ギルドに入って受付で登録を済ませた後、私は依頼がないかと隣のカウンターに話しかけた途端に、茶化された。


「嬢ちゃんみたいな初心者ならジャック・オー・ランタンの採取とかが丁度いいぞ。いま連中は自我が芽生える前だから、お前さんのような素人でも簡単に……」

「うるさいですわよ!」


 私は男から差し出された依頼書を思わず破り捨てる。

 そのままカウンターにあった掲示板の中から「アルミラージの捕獲」と書かれた依頼書を手に取る。


「私が請けたいのはこういういかにも冒険者という依頼です! そんなみみっちい魔物の回収なんてお断りですわ!」

「……あのな。嬢ちゃん、その魔物がなんなのか知ってて言ってるのか?」

「知ってますわよ。ウサギの魔物でしょう」


 ふふんと鼻を鳴らしながら答える私。

 アルミラージといえばウサギに角の生えたとても可愛らしい魔物。『週間今この魔物が熱い!』でも可愛い魔物ベスト10の中に入っているほどの愛らしさだ。

 そんな私のドヤ顔に対し、男はどこか呆れたようにため息をつく。


「……まあ、冒険者がどんな依頼を請けようと自由だが一つ警告させてもらうぜ。お嬢ちゃんのような初心者はまずパーティに入るのを勧める。それでなくとも冒険者の先輩を見つけてサポートしてもらいな。でないとすぐに死んじまうぞ」

「必要ありません。私は一人でも十分やっていけます」


 その宣言に男性は呆れたような顔を向けるが、私は構わず爺を引き連れ、依頼書を握り締めたままギルドを飛び出した。



   ◇   ◇   ◇



「お嬢様。先ほどのギルドの男性の言うとおり、ここは簡単な依頼にしておくべきでは……」

「しつこいわよ、爺。それにお前は帰りなさいと先程言ったでしょう」


 現在、私は依頼書に書かれたアルミラージが生息しているという森の奥の湖を目指していた。

 幸い、そこに向かうまで他の魔物達に邪魔されることなくすんなりと目的の場所にたどり着く。


「あっ……!」


 そこには私の待ち望んでいた景色があった。

 湖の前にふわふわとした丸い形の団子のようなものが三匹固まり、それが湖の水をぴちゃぴちゃと飲んでいた。


「きゃ~~! アルミラージだ~! 可愛い~! ふわふわもこもこしてて気持ちよさそう~! ……い、一匹くらいなら持ち帰ってもいいよねぇ」

「ちょ、お嬢様、危険ですよ!」


 思わずデヘヘと笑みを浮かべて近づこうとしたその時、アルミラージ達が一斉にこちらを振り返る。


「え?」


 次の瞬間、その額に生えた角を突き出し、私めがけ次々と突進をしてくる。



「ちょ、ええええええ!!?」



 咄嗟に避けるのもの、その先にあった樹にアルミラージの角が突き刺さると、そのまま樹は根元から倒れていった。


「へ!? 嘘!? 一撃で樹が沈んだわよ!? なにあれ!!?」

「そんなことよりもお嬢様! ここは逃げましょう!」


 爺が叫ぶと同時に再びアルミラージ達の突進が始まり、私と爺は全力で逃げ出す。

 しかし、慌てて走ったためか樹の根っこに足を取られ、そのまま転んでしまう。


「お嬢様!?」


 後ろを振り返るとそこには眼前に迫ったアルミラージの姿が。

 もうダメだと思い、瞳を瞑ったその瞬間――。



「まったくもう。なにしてるのよ、アンタは」



 どこかで聞いた凛とした声が響く。

 見るとそこには先程私のピンチを救ってくれた女性剣士の姿があった。


「あ、あなたは……」


 驚く私に女性はこちらに突進してくる残りのアルミラージを一閃のもとなぎ倒す。


「アルミラージは見た目の割にものすごく凶暴で危険度もDランクの魔物よ。初心者が相手にするには危険なのよ」


 私に差し伸べられた手を握りして、立ち上がる。


「あ、あの、どうしてここに……?」

「ギルドに行ったら初心者の冒険者が一人でアルミラージを狩りに行ったって話を聞いてね、それですぐに追ってきたのよ。そしたら案の定アンタだったし」


 呆れたように笑いながらも、女性は私に怪我がないかと心配してくれた。


「わ、私を追って来てくれたのですか……?」

「当たり前じゃない。知ってる奴を見殺しになんて出来ないわよ」


「――――」


 その言葉を聞いて、私は初めて誰かを尊敬した。

 同時に、それまで漠然としていた冒険者になりたいという気持ちは「この人のような冒険者になりたい」と目標が定まった。


「あ、あの!」


 気づくと私は思わず声をかけていた。


「そ、その、わ、私とパーティを組んで……くれませんか!」


 こんな初心者の自分とパーティを組んでくれるなんて思ってはいなかった。

 それでも、どうしてもその言葉を口にしたかった。

 自分の厚顔さに顔を赤くして俯いてしまうが、その人から返ってきた答えはまさに私の予想外のものだった。


「いいわよ」


 あまりにアッサリと、その人は、三度その手を差し伸べてくれた。


「アンタみたいな危なっかしい初心者は放っておけないからね。一人前になるまではアタシがアンタのサポートをしてあげるわよ」


 ウインクをしながら差し伸ばすその手を私はすぐさま掴む。


「は、はいっ!」

「そういえば、アンタ名前はなんて言うの?」

「わ、私はミリアです!」

「そう。アタシの名前はリリィよ。よろしくね、ミリア」

「はい! こちらこそ、よろしくお願いします! リリィ先輩!」


 それが私と先輩との出会い。

 私が先輩を尊敬し、目標とした瞬間でもありました。



   ◇   ◇   ◇



「ということがあったのです!」

「ほー、なるほどなー」


 長いミリアの過去話が終わり、気づくとすっかり夕方になっていたが、なかなか興味深かった。

 確かにそういうことがあったのなら、ミリアがリリィを先輩と呼んで懐くのも分かる気はする。


「分かりますよね! 分かってくれますよね! なら、リリィ先輩を賭けて再び勝負です!」

「だから、すぐにそっちの方向に持っていくなっつーの!」


 そんな風にミリアとの会話を交わしながら、今日もオレの平和な一日は過ぎていくのだった。



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