06話 ミリアと偽の婚約者①

 ドンドンドン!


 扉を叩く音にオレは「またか……」とゲンナリする。


 ここ最近は平和だったのだが、またミリアが勝負だなんだとオレの家に来たようだ。


 果たして今回はどう対処していくか、そんなことを考えながら扉を開くと――


「キョウさん! 助けてください!」

「へ?」


 そんな思いよらぬミリアからの懇願に、オレは目をパチクリさせるのだった。


   ◇   ◇   ◇


「婚約?」


「そうなんですよー! 親がもういい年して冒険者なんて遊びはやめてうちに戻ってこいって言うんですよ! しかもそのためにわざわざ婚約者を連れてくるなんて言うんですよー!」


 家に入るなら、いきなりそんな家庭の事情を話し始めるミリア。

 薄々気になっていたんだが、ミリアっていいところのお嬢様なのか?


「それでその婚約者っていうのは?」


「知りませんよ、そんなの。どこかの王侯貴族のお坊ちゃんなんでしょうけど、私は

そんなのに興味ありません」


 そう言って顔を背けるミリア。うーん、やはりこいつ相当なお嬢様なのか。


「とにかくこのままじゃ、その知らない誰かと無理やり婚約させられるんです! なんとかしてください!」


 オレに詰め寄るミリアだったが、そんなことを相談されてもこちらとしても困る。


「そう言われてもなー。別にいいんじゃないのか? 結婚して幸せな家族を築くのもありじゃないのか?」


「なしに決まってます!!」


 思いっきり否定された。まあ、そりゃそうか。


「大体、婚約なんてしたら冒険どころじゃありません! 私は冒険者になりたくて家を飛び出したんですー!」


 ジタバタと地団駄を踏むミリア。

 ちなみにそんな有様をオレだけではなく、ジャックやモチ、バーン達も呆れた様子で見ていた。


「って、言ってもなー。オレに相談されても、どうしようもないしー」


 そう呟いた瞬間、ミリアは何かに気づいたように顔を上げ、すぐさま笑みを浮かべながらこちらに詰め寄る。


「いえいえ、そんなことはありませんよー。キョウさんにしかできない協力がありますよー」


 え、それは一体? 嫌な予感に背筋が凍るオレに対し、ミリアは満面の笑みのまま告げる。


「あなたが私の彼氏のフリをするんです! それでお父様を納得させます!」


「へ? えええええええええ!!?」


◇  ◇  ◇


 翌日。事態は意外な方向へと進んでいった。


「それで領主様。オレに頼みってなんでしょうか?」

「ああ、それがちょっと内密な話でね。君にしか頼めないんだ」


 現在、オレはこの街の領主の部屋に居た。


 というのも朝早く領主の使いに叩き起こされて、そのまま領主の館へと連れられたのだ。


「実は――娘の恋人を調査して欲しいんだ」

「はい?」


 娘? 恋人? いきなりの発言にポカーンとしているオレを見て領主様が改めて説明をしてくれる。


「実は私には一人娘がいてね。ただその娘というのが自由奔放というか少々気ままで、ある日突然、冒険者になると言って家を飛び出して行ったんだ」


 へえー、領主様に娘がいたとは、正直かなり意外。


「私としては娘には普通の生活をして欲しい。そのためにこちらで婚約者を見つけてあれに身を固めてもらおうと思ったのだが……先日、自分にはすでに将来を誓い合った恋人がいるから結婚はできないと断られたのだ」


 なるほど。どこかで聞いたような話ですね。とか思っていると領主様はため息混じりに続ける。


「その者が娘を本気で愛しているのなら娘の気持ちを優先させたいのだが、その者が娘の財産目当てに近づいた可能性も否めない。そこで君には娘の恋人がどんな人物か探って欲しいのだ」


 はあ、そうなんですか。というかさっきから嫌な予感がしているのですが。まさか……いや、そんなね……。


「用件は分かりました。それで、その、領主様の娘さんのお名前はなんというのですか……?」


「ああ、そうだったね。これは失礼。娘の名前は――」


 と、領主が名前を口にしようとした瞬間、その人物はこの部屋に現れた。


「パパ! どういうつもりですの! 私の恋人を連れ去るなんて!」


 そこにいたのは先日、オレに彼氏のフリをして欲しいと頼んだミリアであった。


 オレはこちらに向かってくる彼女と目が合うと、とんでもない件に首を突っ込んでしまったと後悔するのであった。

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