03話 カイコロモチとカイコロ人形


「頼もー!」


 またか。

 そろそろ慣れてきたオレは、扉の向こうから聞こえてくる声に対して、すぐさまドアを開く。

 そこには案の定、少女騎士ミリアがいた。


「ふふ、待ちわびていましたよ。あなたとこうして決着を付ける日を」


 いやー、それ前にやった気がするんだけどなー。

 あと、この展開もさすがに三度目ともなると目新しがなくなるというか。

 ぼんやりと目の前を見つめていると、いつものようにミリアが腰に差している剣に手を伸ばすが。


「さあ、今回こそはあなたに勝って、リリィ先輩を解放し――ふわぁ!?」


 なんぞ?

 急に奇声を上げたと同時に、ミリアが固まった。

 よく見ると彼女はオレの後方を凝視していた。

 後ろを振り返るとそこには、カイコロモチのモチがゆったりリラックスした姿で寝返りをうっていた。

 もう一度ミリアの方を見ると、彼女の体は小刻みに震えており、頬も赤く染まっている。

 一言で言うと軽い興奮状態だろうか。なんか息も荒い。


「か、か、か、カイコロモチじゃないですか、そ、それ?」 

「ああ、そうだけど」


 ようやく声を出したかと思ったらそんなことか。

 するとミリアが「~~~~~」と声にならない声で悶えていた。

 一体なんぞや。


「な、な、なんでカイコロモチがここにいるんですか!?」

「え、そりゃ、こいつはオレの家族の一員だから」

「カイコロモチと一緒に暮らしているのですか!? な、なんて羨まし……じゃなかった、め、珍しいですね、それは……」


 んー? なんかさっきからこいつの食い付きが尋常じゃないぞ。

 しかも、会話してる傍からチラッチラッと何度もモチの姿を観察してるし、こいつもしかして。


「カイコロモチ好きなの?」

「な、なななっ!?」


 ドンピシャな狼狽えぶりと、顔を真っ赤にした姿は明らかに正解を示していたが、なんの強がりなのか彼女は腕を組んで顔を逸らした。


「な、なんのことを言っているか、分かりませんね。た、確かにカイコロモチのゆるふわっとした外見に、のんびりとした性格、その上、錦糸という素敵な糸を吐く姿に一部の人達が愛らしいと感情を覚えて、最近巷ではマスコットの販売も行われていますが、私はそういうの全然興味ないですから、ええ」


 めちゃ饒舌。

 しかも、聞いてもいないことをペラペラと喋ってるあたり、確実に好きだろう、あなた。


「そっか、興味ないのか。せっかくだし、ちょっと挨拶させようかと思ったんだが、興味ないならいいな」

「あ、挨拶してくれるんですか!!?」


 すげえ食いついてきた! ってか、顔近い!


「ま、まあ、ちょっとくらいならしてみる?」

「は、はい! ぜひ! あ、べ、別に私自身は興味ありませんけどね。あなたがどうしてもって言うからするだけですよ」


 だから、その強がりもうバレバレだって。




「おーい、モチー。この人に挨拶してあげなー」


 オレがモチの名前を呼ぶと、モチはすぐさまこちらにズズッっと近づき、隣にいるミリアに糸を吐いて挨拶してくる。


「きゅうー!」

「はうううううぅ」


 その姿を見たミリアの表情は完全にとろけて弛緩していた。

 いやもう、あなた相当カイコロモチ好きでしょう。

 と、そんなことを思っていたら、ミリアの手が伸びてモチの頭を触ろうとするが、それにはモチがビクリと反応して後方に下がる。


「え、え!? な、なんで!?」


 避けられたことにショックを受けるミリアだが、まあ、これは仕方のないことであった。


「カイコロモチは警戒心が強くて人間を前にすると逃げるだろう? うちのモチはオレに懐いてるから、そこまで極端じゃないけど、やっぱオレ以外の見知らぬ人間に触られるのは警戒するんだよ」

「そ、そんなー」


 念願のカイコロモチに触れられると期待していたのだろう。それが無理と分かるや否や全身に残念のオーラをまとうミリア。

 が、しばらくすると何かを閃いたような顔になり「ちょっと待っててください!」とオレの家から急いで出て行く。

 その数分後、慌ただしい足音と共にミリアが再び戻ってきた。


「これならどうです!」


 そう言ってミリアが抱えていたのは等身大のカイコロモチの人形、大きさもほぼモチと同じものだった。

 それ、あなたの私物ですか?


「きゅうううううぅ~!」


 そんなオレがツッコミを入れている隣で目をキラキラ輝かせたモチが喜びの声を上げている。

 あ、これ、明らかにあの人形を仲間だと思ってる目だ。

 それにミリアも気づいたのか、人形を横においてモチへと近づけていく。


「こ、こんにちわー。モチちゃんー。僕、カイコちゃんって言うんだよー。よろしくねー」


 後ろから人形を掴みながら小声で呟くミリア。

 いや、それはいくらなんでもバレるだろう!? とか思っていたら。


「きゅうううぅー!」


 特にバレることなく、モチがカイコと呼ばれる人形に近づいてスリスリしだす。

 うーむ、純粋な奴だ。

 ちなみにそれを見ていたミリアもとろけた表情で笑顔を浮かべている。こいつも純粋だなー。

 微笑ましいその光景を見ていると、モチが何を思ったのか口から糸を出しながら、それをカイコのぬいぐるみの口にチョンチョンと近づける。


「きゅうー?」


 あ、「君はどうして糸を吐かないの?」って疑問に思ってるやつや。まずいぞ。

 ミリアもそのことに気づいたのか、明らかに冷や汗を流しながらなんとか誤魔化そうとしていた。


「じ、実は僕、糸が吐けないカイコロモチなんだー。だから、モチちゃんが糸吐けて、すごいなー!って思ってるよー」


 それはいくらなんでも無理ありすぎだろう!? と思っていたが。


「きゅうぅ~!」


 そうなんだねー! とモチはあっさり納得した様子。

 うむ、お前は本当に純粋ないい子だなー。

 ちなみにそんな様をミリアは終始幸せそうに眺め、持ち込んだカイコ人形と一緒にモチとじゃれあって遊んでいた。




 ……ところで、ミリア。お前は今日何しに来たんだ?



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