08話 ミリアと偽の婚約者③

「どうするんですかー! もう終わりですー!!」


 というわけで現在、オレの家に来たミリアに事情を説明したところ、彼女は床に転がりそのまま悶々とうめいていた。


 うん、気持ちは分かる。片棒を担いだオレもどうしようかと途方に暮れている。


「仮にその恋人を連れて行くとしても……容姿端麗で品行方正。実力もあって皆から慕われる一流の冒険者なんて、そんな男性いるわけないじゃないですかー!」


 そりゃ、あなたが理想の恋人としてプロフィールを盛りすぎたせいですよ。


 あー、マジでどうするか。仮にオレが変装したところで、そこまでハイスペックな奴にはなれないしなぁ~。


 うーむ。どこかにいないもんだろうか。実力があって、見た目も綺麗で、こちらの事情にも詳しい冒険者とか。


「キョウー。ちょっといいかしらー、栽培した魔物を分けて欲しいんだけどーってミリアじゃない。アンタ、こんなところで何やってるの?」


 その時、ちょうど扉が開き、リリィが部屋に入ってきた。

 彼女の姿を見て、オレとミリアは思わず顔を見合わせた。


               ◇  ◇  ◇


「それで、そちらが娘の恋人の……」


「はい。リアンさんです。どうぞ、リアンさん」


「……ど、どうも」


 オレの紹介と共に領主様の前にリアンと名乗る男性が前に出る。


 それは長い金髪を後ろでポニーテールにし、服装は貴族のような黒を基準としたスーツを身にまとい、見るからにどこぞの王子様のような雰囲気をさらけ出しているイケメンの冒険者。


 言うまでもなく、それは男装してもらったリリィであった。


 あのあと、事情を説明したリリィになんとか土下座をして頼み込み、一度だけ協力してくれると約束してもらえたのだ。


 なお、そんな男装姿のリリィの後ろでは、ミリアが頬を赤らめ、両手を組んで恍惚としている。


「聞けば、君はミリアを冒険者として導いた先輩らしいね。娘が世話になってすまない」


「い、いえ、別に。当然のことをしただけです」


「ふむ。なかなか謙虚な若者だね。確かに、娘が惚れるのも無理はないか」


 リアンことリリィの態度に好感を抱く領主。

 まあ、実際にリリィがミリアを導いた先輩なのは本当のことだし。ミリア自体もリリィに好感を抱いているわけだから、この変装作戦はかなり上手くいっている気がする。


 それをミリアも気づいたのか、すぐさまリリィの腕に自分の腕を絡めて、父親に宣言する。


「そういうことです、お父様! 私には心に決めたこの人がいるので、婚約の話は無し! ということで!」


 ミリアに腕を絡まれて、ちょっと困った様子のリリィだが、そこは彼女も作戦とわきまえているため、ミリアと一緒に頷く。


「……そうか。ならば、仕方がないか。娘がそれほどまで本気ならば、ここは君に任せて――」


 そう言って領主がセリフを終えて、ようやくこの事件からも解放されるかー。とホッと一息を入れようとした瞬間、


「待ってもらいましょうか!」


 バンッ! と扉が開くと共に、そこから派手な衣装に身を包んだ男性が現れる。


 金色の髪に甘いマスク。右手には赤い薔薇を持った、その男の周囲だけなぜかキラキラと光り輝いている。


「やあ、久しぶりだね。ミリア」


「げっ!」


 その男性を見た瞬間、ミリアの顔が嫌そうに変化する。


「ミリア、こいつ誰?」


 明らかに置いてけぼりくらいそうだったので、オレがミリアに質問すると、答えは意外なところから返ってきた。


「彼はロンダーク卿。この大陸の首都にいらっしゃる貴族の跡取り息子で、ミリアの婚約者だ」


 ああ、なるほど。彼がそうですか。


「ちなみにミリアとは小さい頃に何度か首都のパーティで顔を見合わせた仲でね。その度に彼女に薔薇を送っていたのだが、なぜか突き返されて……ふっ、恥ずかしがり屋な子だよ」


 薔薇の匂いを嗅ぎながらロンダークはキザっぽく笑う。

 あ、これもうキャラ掴めました。ありがとうございます。


「ともかくミリア。これはそちらのエクレーゼル卿と、我がロンダーク家が結んだ婚約。そのような冒険者と結ばれるよりも僕と結ばれる方が世間も遥かに祝福してくれるよ」


 そう言って薔薇をミリアに差し出すものの、ミリアはその薔薇を払いのけて、舌を思いっきりべーっと出す。


「嫌ですわよ! 何度も言ったじゃないですか。私はあなたになんか興味ありませーん!」


「ふっ、相変わらず僕に手を焼かせる困った子猫ちゃんだ。だが、しかし! そんな君を射止めるために僕はこれまで修行を怠ってはいない!」


 ビシッ! とロンダークは右手に持った赤い薔薇をリリィの方へと突き出す。


「勝負だ。そちらのリアンとやら」


「へ?」


 それまで完全に置いてけぼりにされ呆然としていたリリィが、自分を名指しされて間抜けな声を上げる。


「ミリアが冒険者に憧れたと聞いてから、僕もこの道に入り、今では冒険者としての実力を身につけている! いわば、僕こそがミリアの理想の男性像! 強く! 美しく! 賢く! 皆に頼られる冒険者であり貴族! 僕以上にミリアに相応しい男がいるだろうか、いやいない!」


 ハッキリと断言するロンダークだが、確かに言われてみればミリアの理想像にある意味ぴったりな気がするが、当のミリアを見ると、


「絶対に嫌です~! 私はリリ……じゃなかった、リアンさんと以外は婚約しませんっ!!」


 と、こちらもハッキリ断言。

 それを見て、ロンダークも予定通りとばかりに、先ほどのセリフを続ける。


「そういうわけでリアンとやら、この婚約、勝負で決めようではないか。もし僕が負ければ僕はミリアから手を引こう。ただし!」


 再び薔薇をリリィへと差し出し、派手なポーズを決めるロンダーク。うん、そろそろ鬱陶しいぞ。


「僕が勝ったら、君にはミリアから手を引いてもらおう」


「…………」


 その宣戦布告に対し、しかしリリィは予想外に楽しそうな笑みを浮かべて、差し出された薔薇を受け取り宣言する。


「いいわ……じゃなかった。いいぜ。その勝負、受けてやるよ」


 男前な笑みを浮かべるリリィに対し、ロンダークは「そうでなくては」という笑みを浮かべ、ミリアはリリィのイケメン笑いにときめき、領主様は「面白くなってきたなぁ」という笑いを浮かべ、オレはこの騒動がどう決着付くのかと不安と期待が混じった苦笑いを浮かべていた。

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