04話 ミリアと白馬の王子様①


「ねーえ、しましょうよー。勝負しましょうよー」


 今日も今日とて、いつもと変わらない平凡な日々。

 そう、いつものごとく、例のミリアと言う少女がうちに押しかけてきて、今もオレの腕を引っ張っているが、いつもどおりの平常運転だ。


「というか、なんでそこまでオレとの勝負にこだわるんだ?」


 お前、冒険者なんだろう? こんなところで油売ってていいのか?


「決まってるじゃないですか! あなたに勝てばリリィ先輩が私と相棒になってくれるんです! なら、勝負するほかありませんね!」


 胸を張ってドヤ顔で宣言しているが、当のリリィはそんなこと一言も言ってないと思うぞ。


「というかリリィは別に相棒がいなくても冒険とかできるんだろうし、なにもそこまであいつにこだわらなくても……」

「こだわるんです!」


 なぜか食い気味にオレに押し寄るミリア。顔近いです。


「これまで私と一緒に冒険をしてくれたのはリリィ先輩だけなんです!」

「ん、それってどういう意味?」


 それはまさに迂闊な質問であった。ミリアの瞳がすぐさま輝き出す。


「聞きます! 聞いちゃいますか!? 私とリリィ先輩との出会い!!」

「あー、いやー、そのー」

「仕方ありませんね。そこまで言われては話してあげましょう」


 まだ何も言ってないんだが。

 まあ、喋りたそうなんで、ここは黙って聞いておくことにした。


   ◇   ◇   ◇


 そう、あれは一年前。

 私が冒険者を目指すべく館を飛び出した日のことでした。


「お嬢様! お嬢様! 冒険者なんて危ない職業に就くなどおやめください! 旦那様もお嬢様に早く戻ってきて欲しいとおっしゃっています!」

「しつこいわよ、爺。私は決めたの。一流の冒険者となってこの世界に名を残すと!」


 ビシッと買ったばかりの剣を構える私。

 急に広場で剣なんて構えたものだから周囲の人達の目も私に向いている。

 ふふっ、早速期待の大型新人のプレッシャー出しちゃったかな。


「……お嬢様。館から出て一人で家を借りるまでなら爺も止めはしません。お嬢様もいい年ですし自立するにはいい頃合です。しかし、よりによって冒険者という職業は――」

「くどいわよ、爺! 私はなると言ったらなるの! そして、この手で珍しい魔物を捕らえてはカイコロモチのような素敵なペットをはべらかすの!」


 そう、先日、読んでいた『週間今この魔物が熱い!』ではカイコロモチの特集がされていて、生体が詳しく書かれていた。

 それを書いたのは冒険者であり、冒険者になればカイコロモチを間近で見ることはおろか、チャンスがあれば捕まえることも出来るという!

 わ、私もいつか一流の冒険者になった暁にはカイコロモチちゃんとお友達に……!


「ぎゃふんっ!」


 そんな妄想をしていたせいか、道を阻む数人の男性にぶつかり転んでしまう。

 思わず文句を言おうと顔を上げた瞬間。


「なんだぁ、この可愛らしいお嬢ちゃんは?」

「ひっ!」


 そこにいたのは絵に描いたようなゴロツキ集団。

 でも服装を見れば冒険者っぽくあるような、ないような。


「おい、嬢ちゃん。その格好もしかして、冒険者のつもりか?」

「ほー、見てくれだけはいい格好だな。けど、装飾は凝ってるが実用性の低い装備ばっかりじゃないか」

「悪いことは言わねぇ。嬢ちゃんみたいなのはおうちでゆっくりご本でも読んでな」


 がっはっはっ、と明らかに馬鹿にするような笑い声を聞いてカッとなり、私は剣を抜く。


「ぶ、無礼者! 私はれっきとした冒険者です! こう見えても剣術の心得だってちゃんと受けていますわ!」

「へえー、そうかい。なら、そいつを試してやろうか?」


 私の態度を挑発と受け取ったのか、男のうちの一人が武器を抜いて構える。


「言っとくが冒険者の戦いってのはお嬢ちゃんが思ってるような綺麗なもんじゃねぇぜ。なにせこっちは生き残ることが仕事。汚いだの卑怯だのは受け付けないぜ!」

「ひっ!」


 叫ぶと同時に男の剣が私に迫る。

 その気迫とあまりに急な攻撃に思わず目を瞑ってしまう。だけど、次の瞬間訪れたのは、剣による衝撃ではなく、目の前で起きた出来事に対する衝撃。


「なにしてんのよアンタ達」


 凛とした声と共にひとりの小柄な少女が私の前に現れ、剣を振り下ろそうとした男の手を掴み、そのまま後ろに投げ飛ばしたのです。

 あまりに急な登場。それと同時に大の男を軽くいなす実力。

 その人、リリィ先輩はまさに物語で読んだ白馬の王子様のように私の目の前に現れたのでした。


   ◇   ◇   ◇


「……え、あれ、これ続くの?」

「当たり前です! 私とリリィ先輩との出会いを一話で語りきれるわけないでしょう!」

「え、ええー」


 思わぬ長話の始まりに迂闊な事を聞いてしまったと後悔するオレであった。



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