第41話 私が好きな季節は

 

それから何度も、季節は過ぎて。 


私は、小学校の先生になった。


入学式が終わり、おろしたての紺色のスーツをまとった私は、教室に向かう。


そして、1年1組の教室のドアを開けた。


私の後をついてきた、まだあどけなさの残る30人の生徒たちが、それぞれの席に座る。茶色の机の上には、真新しい教科書のセットと、上級生の生徒たちが書いてくれた、お祝いのメッセージカードが置かれていた。


期待と不安の入り交じった、たくさんの瞳は、遠い昔の私と重なる。みんなで挨拶をすると、私は黒板に向かった。新しいチョークで、大きく名前を書く。


「先生の名前は、宮原恵梨香って言います」


すると、一番前の席の女の子が「えりかちゃん、可愛い!」と言ってくれた。自分より何倍も小さな子に、可愛いと言われて、どこかくすぐったいような嬉しさに微笑む。


(そう言えば)


私も小学校一年生の時は、若い女の先生が担任だった。ニコニコと笑っていたけど、今の私と同じで、本当は緊張を隠していただけなのかもしれない。


私は一呼吸置くと、みんなに言った。


「みんなは一年生だけど、先生も、先生として一年生です」


「じゃあ、僕らとおんなじだね!」


男の子の声に、私は頷く。


「そうよ。みんなと一緒だよ」


先生と一緒、という言葉に、みんなの顔から緊張が、少しだけ和らいだような気がした。


「先生に、何か質問はありますか?」


私の声に、ちょうど真ん中の席の男の子が手を上げる。


「はい。田中さん」


男の子は椅子から立ち上がると、真っ直ぐな瞳で私に聞いた。


「先生が好きな季節は、何ですか?」


その質問に、不意に高校生だった自分が蘇ってくる。


ずっとずっと。


春が大嫌いだった。


大切な人を奪った、春が憎かった。


でも……。


「先生の好きな季節は……」


あの日。


あの夢の中で、貴方は教えてくれた。


悲しみよりも、大切なものを。



「先生の好きな季節は、春です」



そう。


迷いなく、今なら言える。


「みんなに出会えた季節だから」


貴方に会えた、季節だから……。



 

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短編集 未来通知 月花 @tsukihana1209

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