顔も名前も知らないその人と、気持ちだけで繋がる幸福感、切なさ。

理科室の一冊のノートから始まる、顔も名も知らない人との交流。姿のない、心だけの交流だからこそ生まれる幸福感と、不確かさ。それらが丁寧に描かれた物語です。

理科のノートの片隅で交換日記のように始まる会話。性別すらわからないその人との関係。それを恋だと思ったり、やっぱり違うと思ったり——思うようにいかない現実に、主人公の心のあり方も微妙に揺れ動きます。

そして迎える、さりげなく、でも暖かい幸福感に満ちたラスト。学生らしい爽やかさと初々しさに、思わず笑みがこぼれます。

何気ない日常の中にありそうなシーンを切り取り、読む者の心をぐっと引き付ける、とても魅力的な作品です。