第202話 異世界デバッグ
破壊されたデジタル空間。壁や床は徐々に綻び、魔力の粒子となって消えていく。修復は不可能。すでに、俺の制御からは離れている。
終わりかけた世界。しかしその場所は、ルーツとの繋がりを残す最後の空間だった。
「俺の勝ちだな、ルーツ」
「判定、微妙じゃない?」
ルーツは小さく笑ったあと、周囲を見渡す。
つい先程まであれだけ狼狽えていた男は、今は落ち着いていた。
「目的を考えろよ。死のうと思っていたお前を、俺は止めた。つまり――」
「負けず嫌いだね、エンジさんは」
それはお前だろ。俺が鼻で笑っていると、ルーツは続けて言う。
「負けず嫌いで、お人好し。こんなところまで、追ってきちゃうなんて」
何で? と、口には出さなかったが、顔を傾け俺に問う。僕なんて、放っておいてくれればよかったのにと。
「知るかよ。お前の意思なんて」
「え……」
「俺がやろうと思ったから、やっただけだ」
どいつもこいつも、理由を求めようとする。それは前面に押し出されることばかりではない。物事の側面に、おまけのようにくっついているだけの場合もあるのだ。
少しの沈黙の後。エンジさんは魔王が相手でも助けちゃうんだ? と、いたずらな笑みを見せたルーツが、俺を馬鹿にするような口調でそう言った。
「本当に死にたかったのなら、もっと場所を選ぶべきだったな」
「そう、だよね。じゃあ――」
「おっと、一つ言っておく。公私共に多忙な俺が、重い体を引きずり、わざわざ時間を割いて助けてやったんだ。この先、死ぬことは許さない」
正確には、死のうとすることだな。俺が補足を入れていると、きょとんとした顔のルーツは、嬉しさと悲しさ、どちらともつかない表情で、唇をぎゅっと結ぶ。
「また勝手なことを。僕はね、魔王だったんだよ? エンジさんの、敵。僕がいなくなりさえすれば、世界はきっと!」
「ああもう、うるさい。二言目にはそれかよ。芸のないやつだ」
虫を払うような仕草で、ルーツの言葉を止める。
「何が魔王だ。何が世界だ。否定してほしかったのか? 言っとくけどな、俺は否定してやらないぞ。お前は魔王で、この世界に生きる人々の敵だった」
「うん。分かっているよ。だから僕は……」
「だから僕は? お前は、分かっていない。それは事実ではあるが、誰かが勝手に決めたくだらない事実だ。昇った太陽は沈む。それと一緒だよ」
口を噤み、眉をひそめるルーツ。決して、話を煙に巻こうとしたわけではない。
足りない俺の頭では、どうしても伝えにくいこと。一方で、仕方ないとも言える。ルーツは、この世界に生きているからだ。
しばし考え、俺はまた口を開く。伝えなくてはと思った。だってそれは、この世界の外から来た、俺だけに伝えられることなのだ。
「一つ質問をする。お前が、自分を魔王だと認めたとして、お前は人を襲い始めるのか? 人を、俺を、殺したいと思うか?」
勢い良く、ルーツは首を横に振る。その後で、思い出したかのように、ぽつりと言った。
「僕さっき、エンジさんを殺すところだったね」
「それも……事実だ。でも、それだって同じさ。お前は俺を殺そうとは思っていなかった。事実、そうなっていたかもしれないだけだ」
具体的な例を挙げ、今度は少し納得したといった表情のルーツ。迷いは当然、まだあるようだった。
それでも最後には頷いたルーツに、俺は頷き返すと、とうとうと語り始める。
ルーツにどうこうしてほしいという気はなかった。何の前ぶれもない、ただの自分語り。
「ルーツ。俺はな、この世界とは別の世界からやってきたんだ」
言ったことあったっけ? 目で訴えかけると、ルーツは微笑み先を促す。
この世界で言う魔法の代わりに、科学というものが発展した世界。魔法と科学に釣り合いがあるかと言われればそうではないが、似た部分はある。今は、細かいことに言及はしない。
俺はその世界で、技術者として働いていた。
ひとえに技術者と言っても、多種多様。仕事内容については特に触れないが、電子のあるなし、ゼロとイチの羅列、信号、命令、コンピュータ。途中が省略され過ぎてはいるが、ざっとこんなもの。
話の軸は、それら全ての始まりである電子のこと。仕事上、多少は関係しているという理由もあって、思いつきで調べ始めたことがあった。
電子とは、素粒子。素粒子とは、物質の基本的な構成要素。詳しいことは語らない――語ってもすぐに理解はできないだろうし、この場においてそれほど意味はない――が、人の目には捉えきれないほど極々小さいものとだけ。
そんな、存在しているかもどうか怪しいものを基本にして、さらには制御して、現代の生活は成り立っている。
安全と言われる電子機器や乗り物。なんだっていいが、身の回りに溢れたそれらのものは、全て電子が制御している。ある意味では、電子に制御、支配されていると言い換えてもいい。それが、俺の生きていた世界。
「考えると、怖い話だろ?」
「……うん。細部は分からないけど、そうだね。そう思う。エンジさんが言うなら、きっとそうなんだろう」
前から少し気になってはいたが、こいつは俺のことを聖人か何かと勘違いしていないか?
似たり寄ったり。良い大人の見本であることは間違いないが……ま、今はいい。
「この世界でいう魔力が、意味合い的には同じものに当たるんだけどな。俺の世界はまだましさ。素敵な頭をお持ちの方々が、一つひとつにそれらしい記号をつけて、それらしく証明しているからな」
そして、証明されたものを基準に、さらに次の謎を証明し定義する。始まりはどこだって話になるが、それもまた何かの事実を元に証明されるのだろう。
ゴールがある前提での、ふわっとした思考の迷路。
話を戻すが、それらの知識を蓄えていったときに、ふと思うことがある。俺たちはなんだろう。この世界はなんだろう。
最小単位である電子。その電子を制御する技術者。利用され、動かされるコンピュータ。それらの例を挙げたのは、俺が関わりが深いからだが。
結局、人も何らかの成分で出来ているだけの何かなのか? コンピュータなんてものを作って、さらに様々な分野に発展して、例えばゲーム内の登場人物が人に操作されるように、イベントと称して簡単に街が消されるように、この世界もそういうものなのだろうか、と。
仮に、人が勝手に名付け記号を付けた、次元という言葉。次元の違いという話。ゲーム世界の住人が、絶対に画面の外に出てこられないように、意思をもって生きていると思っている俺たちも、高次元の世界に生きる何者かの遊びに付き合わされているだけなのかもしれない。
そう思う考えも、作られたもの。そして、そう思わされる考えという考えも。
ガキの頃特有の、寝る前に頭を悩ます一大案件。一周回ると、馬鹿にするのも違う気がしてくるが、答えはきっと見つからない。
進みすぎてもよくないが、停滞するのもよくはない。線引は、難しい。
「だからな……つまり、えっと――」
俺は、何を言いたかったのか。とっちらかりすぎて、自分でも頭が混乱してくる。
大げさで、かつ矮小な例を出し、言い淀んでいた俺にルーツが言う。
「あれ? すごく遠回りしていたようだけど、もしかして、僕を慰めてくれているの?」
馬鹿にするような、それでいて嬉しそうな表情のルーツ。
俺は気怠げに俯き、頭を掻く。
「あ? ばか。んなわけあるかよ。これは……あれ。そう、この世界が神、もしくは高次元に生きる者にとって、いいように遊ばれているということであれば、別の世界から来た俺がなんとかするしかないかもしれないという壮大な話であって、それには理解のある仲間が必要なわけで、そして、やはり仲間というのは強く優しく、俺に楽をさせてくれるやつがいいのだが、ルーツ君にはその役割を担うだけの力が――」
「ふふ。もういいから。分かった分かった」
こいつ……。俺は心の中で舌打ちをする。
「照れなくてもいいのに」
「違うわ、ボケ」
ルーツを睨んでいると、言葉が浮かんできた。
他にも言いたいことはあったような気がするが、もういい。一から十まで伝えることが、悪い時だってある。
「俺たちはな、生きていくしかないんだよ。俺たちの世界で」
俺たちには、感情があり、意思がある。それだって作られたものかもしれないが、それでいい。
どうせ真実には辿り着けないし、辿り着いたところで先はない。画面の中にいる者達が外に出てこられないように、世界の構造上、それはあり得ない。
自身の楽しみを見つけ、より幸せな生活を求め、生きていくしかない。
違う世界から来た俺だけには言えること。勇者だとか、魔王だとか、まるで誰かが遊んでいるような感覚に、疑問を持ったこともあった。でも、それがこの世界なんだ。
召喚された時だってそうだ。台所に立ち、日常の些細な一件に傷心していただけの俺が、突然異世界の住人になった。そりゃあ、椅子だって舐めるさ。天然無自覚王女に、ほいほいとついていっちゃうさ。
でもな、関係ない。自分の根底にあるものが揺るがない限り、何も変わらないんだよ。
最初こそどうあれ、俺は自分の置かれた環境を認め、この世界を認め、早々に決断できた。生きていこうと思えたのだ。
「まずは、安心しろ。魔王を名乗る男を倒したのも俺だし、突如現れた、後出し魔王であるお前に勝ったのも俺。俺が生きている限り、お前は自由に生きていいんだ」
「やっぱり、慰めてるじゃん」
「結果的にな! 俺にその気はなかった。お前がどう思おうが、お前の勝手だ」
俺の言葉に微笑んでいたルーツだが、泣き笑いといった表情で口角を下げる。
「でも、僕は……」
「分かっている。そうしたのは俺だ。悪いけど、力不足な俺では、これが限界だったんだ」
ほとんど崩れてしまったデジタル空間。崩壊している理由はルーツの魔法、その膨大な魔力を書き換えたため。
しかし、地の力が違いすぎた。死からは遠ざけたものの、この空間が終わる時、ルーツはおそらく……。
「どれくらい、かかりそうだ?」
「一年か十年か。いや、もしかしたらもっと」
「そうか」
一瞬の静寂のあと、俺は明るい声で言う。
「まあ、ちょうどいいか。死にたがりのお前は、ここで少し頭を冷やしてろ」
「エンジさん?」
話す機会を与えてくれたデジタル空間が、終わりの時を刻み始める。
「デバッグしてやる」
「デバッグ?」
「世界中、いや、まずはお前だけでも生きやすいと思える世界に。世界平和なんてものを目指す気はないが、俺は俺が思う、今より少しだけ良い世界に書き換えてやる」
ルーツと目を合わせ、俺はニヤリと笑う。
「ITエンジニアの異世界デバッグだ――」
ルーツが二言三言呟く。俺は頷き、フェニクスとワストを回収したあと、その場を離れた。
騒がしく、意地汚いアンチェインメンバーと共に、王城の外へ。
念のため、城下町を抜け街の外まで走る。平原。
振り返れば、バルムクーヘン王城は氷に包まれていくところだった。なにをどうしようが割れず、溶けない氷。
魔族に奪われ、奪い返し、盗人共によって金品を奪われたその城は、魔王ルーツの眠る氷城となった――
……。
「婿殿、お疲れ様。どんな男かと思っていたけど、私は君を認めた。多分十歳くらい離れているけど、年の差なんて大したことじゃない。不器用な娘だけど、幸せにしてあげてね」
何を認められ、何を励まされたのだろうか。半分くらい狐の女が、俺の側に来て話しかけてくる。
「ああ、誰?」
「彼女の名前はマイ。僕の部下であり、君の仲間さ。エンジ君」
「マイ?」
「いやん! お母さんって呼んで!」
エクレトが横から出しゃばり、マイが腰をくねらせる。
出しゃばってきたくせに、分かったのは名前だけ。この女がアンチェインだってことくらいは、俺も分かっている。
エクレトの説明不足はいつものことなので諦める。だが、今はそれよりこの女。危険だ……。非常に危険な香りがする。
アンチェインには、やはり危ないやつしかいない。改めてそう認識したところで、思い出す顔。
マイの言葉には無視を決め込み、俺は何気なく問う。
「そういえば、キリルは来てないのか。あいつは、呼ばれてそうだと思ったんだが」
エクレトが言っていた、まだ来ていないという代表戦メンバー。結果的には狐女だったわけだが、俺はてっきり、あの戦闘狂のことだと思っていた。――危ないやつという括りで思い出したことは、内緒だ。
「あれ? エンジ君、知らなかったんだ。彼女はね――」
「ん、んん! それより、早くここを離れよう。王国軍の奴らに見咎められると厄介だ」
今度はカイルが不自然に横入りし、エクレトの言葉を遮る。
雑談程度に問うただけだったが、この話題はカイルにとっての爆弾だったのだ。
俺たちアンチェインの頼れるボスであるエクレトは、もちろんだとばかりに、躊躇なく起爆スイッチを入れる。
「君たち、仲いいんだろ? じゃあいいじゃないか。キリル君はね、産休中だよ」
「え……」
え!?
「カイル、お前」
相手は誰だ、なんて言うつもりはない。今のカイルの反応が、全てを物語っている。
そして、俺は知っている。ノービスから始まり、学園の女学生、俺と一緒に走り回ったかけがえのない日々を。あの、妻子持ちとは思えない行動の数々を。
「そういうこった。そういう人生もある」
「そういうこった、じゃない。カイル君、説明を頼む」
そろそろ逃げるか、と移動を始めたアンチェインメンバー。
俺は話を流そうとするカイルの肩に腕を回すと、しつこく問い続けた。
「二人きりだと、結構可愛い部分があってだな。それで」
「ふうん。あいつがねぇ……」
「おいエンジ、誰か来るみたいだぞ」
フェニクスの言葉に、俺とカイルも急いで逃げ出す準備をする。カイルの話はここでなくとも聞ける。あとでゆっくりと、な。
――お前! 女学生に言い寄られて、鼻の下を伸ばしてたじゃねえか!
――エンジさん、お久しぶりです。その話、詳しく聞かせてくださる?
結果的に、あとでゆっくりと、はできなかった。カイルのことが心配で、近くまで迎えに来ていたキリルに、カイルは連行されていったからだ。
余談だが、凍てつくような目をした過去のキリルは、もういなかった。切り揃えられていた前髪を、今は横に流し、険の抜けた表情をしていた。
「しぃっと! 俺様の王冠が!」
走り出した直後、フェニクスの頭に乗っていた王冠が、ころころと背後に転がっていく。
走り寄る、人の気配。
「元はお前のじゃねえ。諦めろ!」
しょんぼりとするフェニクスを励ましつつ、俺たちは走り去った。
しばらく走ったところで一度足を止め、振り返る。
魔王ルーツの眠る氷城が光に反射し、きらきらと輝いていた。
……。
転がってきた王冠を拾い上げたつり目の女は、小さくなっていく男の背中をじっと見つめる。
隣には、少し背の低い寡黙な少女。
「あいつ、来ていたのね」
つり目の女が隣を見ると、同じ方向を見ていた寡黙な少女は、薄っすらと微笑んでいた。
「待ってよぉ! 二人とも、足早すぎだって」
「あなたが遅いのよ」
遅れて、胸の大きな女が合流する。
どこがとは言わないが、さらに育っているような気がする。足が遅いのはそのせいなんじゃないの? つり目の女は、心中思う。
息を整えると、胸の大きな女は二人に問いかける。
「結局、私達を助けてくれた人は……二人は見た?」
問われた二人は顔を見合わせた後、同時に首を横に振る。
そっか、と残念そうにため息を吐いた女は、独り言のように呟いた。
「笑わないで聞いてほしいのだけど、意識を失う直前、エンジの声が聞こえた気がしたんだ。やっぱり、夢だったのかなぁ。夢、だよね」
その悲しげな声色を聞き、つり目の女は口を開く。
「きっと、夢なんかじゃないわ」
「え?」
「来てくれたのよ。エン……ブルーベリーさんが」
「だから! 誰なのよそれ!?」
=====
一年か、十年か、もしかしたら、それよりももっと。
誰もいない静かな城内を歩き、氷の隙間を抜け、僕は外へ出る。
にわかに喧騒が聞こえ始め、目視でも確認する。そこには、きれいな街並みが広がっていた。
目を見開いた僕は足早に街の中へ入り、人目を気にしつつも歩きだす。
「お、きれいな姉ちゃん。どうだ? 俺とこれから飯にでも」
「おい、彼女は僕が先に目をつけていたんだ」
僕の前で、僕を取り合う人と魔族。目を疑う。
あとで聞いた話では、敵同士だったはずの両者がぶつかりあったバルムクーヘンは、今や人と魔族が共生する街となっていた。
世界中、全てがこうなったかと言われれば、全くそんなことはないらしいが、少しずつ、両者は歩み寄り始めている。
「僕は男だ」
唖然とする男たちの横を通り抜け、また歩きだす。
人と魔族が同じ街で共に生きる。驚くべきことだが、それ以外は普通の街。かと思いきや、あった。その街には一つだけ、おかしな風習があった。
「あら、こんにちは」
「うん。こん、にちは……」
スカートの前をたくし上げ、下着を見せつつ挨拶される。始めは、変な人に出会ったなという感想だったが、どうやら違う。皆が皆、同じように挨拶していくのだ。
なんでも、ちょっとした揉め事や争い事は、この挨拶が広まることでなくなり、今僕が見ているような平和な景観が保たれるようになったという。多分、いろいろと馬鹿らしくなるんだろうね。僕はそうまとめる。
今より少しだけ良い世界へ――
異世界デバッグを見せてやる――
僕の頭に思い浮かんだのは、彼のこと。あれだけの大口を叩いていた彼の出した結果が、まさかこれ? いや、街自体は凄いんだけどさ……。
呆れつつも、僕は自然と笑っていた。彼の、彼なりの、彼らしい想いと企みが透けて見えるようで。
どこにいるのだろう。早く、会いたいな。
「道を開けろぉ! おろかな人共、魔族共!」
「どけどけ! 遅刻しちまうじゃねえか!」
「分かってんのか? うちの母ちゃん、怖えんだぞ!」
僕が胸を弾ませていると、大きく、それでいて偉そうな声が辺りに響く。おそらく外敵。
せっかく作られた平和な街を、彼が関わっていると思われるこの街を、守らなければ。
使命感に燃えていた僕は、現れた者達を見て肩の力が抜ける。
赤茶色の小鳥が数羽、並んで道を歩いていた。大人も子供も道を開け、悠々とその間を闊歩していく。
転んでしまった少女がいたが、お構いなし。その少女の背中の上を、ここが俺様の道だとばかりに、てくてくと歩いていく。
誰もが文句を言いそうな光景だというのに、街の皆は、背中を踏まれている少女でさえも、どこかほっこりとした表情で小鳥たちの行進を見守っていた。
「お前の母ちゃん誰だっけ?」
「メアリーママ」
「ああ、確かに怖そうだ」
「お前のとこはいいよな。ベルママ、見た目からして優しいもん」
「まあな。でも今日は父ちゃんも来るって……ぬっ! なにやつ!?」
そして、ついに僕の前まで来た、どこか見覚えのある小鳥たち。
質問をしようと立ちふさがっていた僕を、小鳥たちは素早く囲む。
「逃がすな! 囲め、囲め」
「俺様達の道を塞ぐとは、いい度胸だ」
「てめえ、俺様達の父ちゃんが誰か分かってやってんのか! おん?」
「いや、僕は」
口調はこの上なく乱暴だが、小さなその姿に気持ちがなごむ。たまらず、微笑んでしまうと、それを見た小鳥達の語気はさらに強くなっていく。
話は、聞いてもらえそうにない。どうしようかと困っていると。
「む! まーた誰かに絡んでるのね! やめなさい!」
「エンジに、言いつけるよ」
小鳥たちが、僕の背中から聞こえた声に反応し、慌てて逃げ出す。
「いかん! ノービスだ。逃げろ!」
「いつもいつも邪魔しやがって、あの小娘……ん? エンジって誰だ」
「あー。父ちゃんが認める唯一の人間が、そんな名前だった気がする」
「おいおい。ノービスの隣にいた白いの、言いつけるって」
「やべえじゃん」
騒がしい小鳥たちは去っていく。彼らのあとを追っても良かったのだが、向かう方向は同じだろう。と、僕は推測する。
振り返り、懐かしい声の主たちに挨拶をする。
「大丈夫でしたか? あの子達も、根は悪い子ではないのですが……って、あれ?」
「久しぶりだね」
「あ、魔王だ」
僕は手を引かれ、その人の元へ向かう。
「ちょうどよかった! 今日はね、先輩がこの街に帰ってくるんだって!」
「早く、行く」
街外れへと辿り着いた時、そこには僕の見知った顔が何人もいた。当然のように、先程の小鳥たちも。
僕に気づいた人もいたが、軽く手を上げ、挨拶もそこそこに皆の見ている方向を、僕も一緒になって見始める。
ゆらりと、人影が見えた。隣には、いつもの大きな鳥。不審げな表情をしつつも、男はゆっくりと街に向かって歩いてくる。
皆が見ている前で立ち止まると、面倒そうな振る舞いを隠しもせず、男は口を開いた。
「なんでお前ら、こんなところに集まってんだ? 迷惑だろ」
居ても立ってもいられなかった僕は、誰よりも早く駆け出した。
ITエンジニアの異世界デバッグ 冷静パスタ @Pasta300g
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