回転地獄

徳川レモン

そこは地獄だった


 目が覚めると、隣には見知らぬ奴が居た。


「お、目が覚めたか?」

「ここは……どこだ?」

「地獄だよ」


 俺はその言葉に恐怖を感じた。

 隣の奴は言葉を続ける。


「あいつを見ろ。ああやって動く床に乗せられて、悪魔たちの元へと運ばれるんだ」

「悪魔だと?」

「でっかい化け物だ。そいつらは俺達を食べようと押し寄せて来る」


 ぶるりと身体が震えた。

 俺は食べられるために生まれたのかと。


「ここからは逃げられないのか?」

「無理だな。逃げられた奴はいない」

「くそっ! 俺は食べられるのを待つだけなのか!」

「おっと、俺もとうとう最後の時が来たようだ」


 奴の乗った皿が、一際大きい皿へ乗せられる。


「待ってくれ! 俺はどうすれば!」

「考えるだけ無駄だ。ここでは俺達はただ食べられるだけの存在だ」


 奴の乗った大きな皿が、動く床へ乗せられる。

 俺はただ、赤い背中を見送るしかできなかった。


「ちくしょう! 悪魔どもめ!」


 落ち込んでいる暇はなかった。

 俺が乗っている皿も動く床へ乗せられ、悪魔どもの元へ運ばれる。


 次第に見えて来る通路の先には、巨大な生き物が二本の棒を使って口へと運んでいた。むしゃむしゃと俺の仲間たちが食べられている。


「嫌だ! まだ死にたくない! 誰か助けてくれ!」


 無情にも床は動き、仲間たちと一緒に悪魔どもの眼前へと移動する。


「そこの若いの。早くあきらめた方がいいぞ」


 近くにいる白い奴が声をかけてきた。


「あんたは怖くないのかよ!」

「儂はもう一時間ほど長生きしているからな、ひとおもいにやってほしいくらいだ」


 かなりの年上なのだろう。

 言葉に疲れを感じた。


「俺はそうは思わない。もっと生きたいんだ」

「若いねぇ。羨ましいよ。ただ、お前さんは儂以上に長生きするだろうな」

「ど、どういうことだよ?」


 俺はひたひたと恐怖が這い寄っていることに気が付いた。




「お前さんは鰆だろう? 誰もサワラんってな」



 



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回転地獄 徳川レモン @karaageremonn

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