自転寿司

にぽっくめいきんぐ

1か月ぶりの観測日誌

 回っていた。ぐるりと。


 鮮烈な赤。それはマグロの証。

 斜めに入った白いサシ。それは上質の証。


 カウンターの椅子に腰掛けると、肩より上に、レーンがある。

 レーンの上には無数の皿。ソレに乗って、上流からやってくる。

 これを「公転」と呼ぶ。


「彗星を見たら、願いを3回唱えなさい。きっと願いがかなうから」


 甘い。あれは、より厳密には、彗星ではない。寿司だ。

 甘酸っぱいシャリと、新鮮な生の魚介類スライスとの、ランデブーだ。


 それを繋ぐは、冷えたすりおろしワサビ。

 いや、サビ抜きだ。小さなお子様もいる。


 レーンの速度は速い。赤い、彗星のような寿司。

 それが三皿、連なってやってくる。

 

 そして、レーンには、屈曲部がある。

 より多くのご家族との出会いを演出すべく、レーンはロの字型に折り曲げられていた。


 我の下流の屈曲部。

 赤い、彗星のような三連星が、そこに差し掛かり、軌道を変えようとするその刹那。


 自転した。

 くるり、くるり、くるりと、めいめいに。


 そうか、あれらは、惑星だったのか。

 白い、割烹着姿の大将から、後光が差した気がした。まさに太陽。


 海洋を征くマグロは不惑。

 それを捌く大将は不惑40

 

 惑う事など何もない。ただ天の川に、手を伸ばせば良い。


「ブツブツ言ってないで、はやく取りなさい!」


 母の右手は巨大な隕石。

 それは今、我が頭との、衝突コースに入っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

自転寿司 にぽっくめいきんぐ @nipockmaking

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ