大人へ変化する時の心の震えをとらえた見事なハイファンタジー

大人向けハイファンタジーとして緻密かつミステリアスに作られ、且つ年頃の少年(少女)が大人へと変化していく時の心の震えを、そのファンタジーの中で見事にとらえた作品でした。

大人へと変わっていく自身の体の変化や、自分が何者なのかという疑問を模索しようとし始める心。
そういったものが淡々とした語りの中で鮮明に輝いています。

また、ファンタジー設定そのものが、そういった変化と密接に関わるように作られていてたいへん面白いです。
「自分の正体」が物語の謎そのものでもあるため、オムホロスとルー(ケセオデール)がそれぞれの戦いや旅を通して答えに近づいていく様にはぞくぞくとするものがあり、読めば読むほど目が離せなくなっていきます。

ゴドウとの間に生まれた愛情と同情によるやりきれない関係。
自身が何者であるかという疑問がそのまま大きな謎に繋がっていく様。
同類である師と殺しあわなくてはならないという恐ろしい宿命。
様々なものがたいへんな迫力と魅力を持っています。

また、節々に見られる心の変化や気づきの繊細さにもとても感銘を受けました。
特に、疎ましく思っていた夫の包容力にルーが初めて気がつくところだとか、自らが愛おしい女性と対峙したことで自分を愛おしんだ男たちの心を悟るところだとか、そういった部分はとても心に残ります。

旅の途中で出会う人々も、それぞれにきちんと背景があることが感じられました。
そのおかげで、作品世界がとても豊かになっています。
メインキャラクターだけの物語ではなく、彼らは世界の一部であり、作品世界はもっと大きいのだと感じることができるのです。

描写や文章も素晴らしいです。
五感に訴えかける文章のために、映像や雰囲気が見事に立ち上がってきました。

とても優れていて、面白く、心に刺さるものもあるファンタジー作品で、読めて良かったと心から感じました。

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