巨人の魂を受け継ぐ男の渾身作。刮目せよ

オレ様……いや、僕は、いつも実力派の物書きの人々をプロデビューしたな呪い殺してやるだの夜道で待ち伏せて釘バットで血祭りにあげたるだのほざいている、無力な痛ワナビである。

……だけど、この作品と作者に対してそんな妬む気持ちを持つことが出来ない。

何故なら、この人は「飯野賢治」というゲーム業界の巨人がこの世を去るにあたって遺したものを受け継いでいるからである。
どんなに辛い孤高の道であっても迎合や妥協のない貴方の創作を完遂してくれ、それは紛れもない正しい道だと僕が保証する…そんな言葉が彼の中で黄金のように輝き続けてこの作品へ結実したのだ、そんな風に思えてならない。
実は僕にもそんな人がいる(彼のような名前の知れた人ではないけれど)この世を去った人が僕に託してくれたものが心の中に息づいている。僕が創作に向かう中で「凛とした一線」を貫かせてくれていると感じる時があるのだ。
だから、僕の思い込みかもしれないが、使命感のようなものを背負い、それを苦に思わない彼の矜持が理解出来るようなした。

この作品の終盤には、思わず目頭を熱くさせるようなフレーズが現われる。
そこには己を信じて孤独な道をゆく者がいつか手を差し伸べる先にあるだろうものを表現していて……僕はその場面を初めて読んだとき、硬直したように長い間ずっと見つめ続けていた。

この作品は、あるいは読む人を選ぶかも知れない。人によっては作者の為人や作品に籠められたものを理解することなくブラウザ、あるはページを閉じるだろう。

だけど努力も信念も目的もなしに異世界で怠惰に振舞う転生エセ勇者の話が持て囃される今「こんな物語に巡り合える時を待っていたんだよ」という僕のような人はきっと他にも大勢いるはずだ。

賭けてもいいが、この人は絶対に受賞してカドカワに諸手で迎えられ、デビューするだろう。
もしカドカワでなくても、彼を是非にと招く出版社が必ず現われる。
プロ作家になるべき力と、何より信念を持った人だからだ。
読む人や僕のような無力なワナビの心に、きっと彼は次回作でもこの世界で生きる為の道標を何かしら授けてくれるに違いない。

願わくば、それがブラウザの中ではなく立派に装丁された書籍の中からでありますように

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