結婚は人生の墓場と言われている

【 Dear.】 【終わりの始まり】 【君が教えてくれた世界】 【桜】


 僕が中学生だった時の話をしよう。


 勉強はニガテだったけど、とりわけ英語が嫌いだった。Google翻訳とか、翻訳のスマホアプリとかで事足りる時代に、外国語を勉強する意味なんてあるのか?


 そんな僕を「問題児」と呼ぶ紗綾さや先生が、「LINEで英語のやり取りをしよう」と言い出した。

 先生は、クラスで人気だった。背が小さくて快活に笑う、子供みたいな人。クラスの男子からの人気は非常に高かったけれど、僕はタイプでは無かった。


 テキトーに、日本語をGoogle翻訳して、先生にLINEで送りつけた。

「都心と西東京とで、桜の咲き具合が全く違って面白かった」

Cherry blossoms are quite different in the city center and West Tokyo, so it was interesting.


 返ってきた返事は、日本語だった。

「翻訳ソフト使ったでしょ? ダメよ。教科書で習った範囲で答えてね」

 押し付けもいいところで、面倒でしょうがない。他の生徒とはそもそも、LINEで英語追試をしてないらしくて。


 英語を、教科書に載っている言葉だけでやるのは難しい。


Hi! my name is Satoshi!

 僕の本名はさとしではなく、俊だ。


Satoshi, nice to meet you. But your name is not Satoshi. You are Sun.


Thank you. This is a pen.


What?


 いや、教科書の範囲で、っていうなら、こうなるだろう。


 先生とのLINEは、しばらくそんな感じだった。僕からの質問も。

What time is it now?

About ten. But, would you please see your smartphone?

How many books do you have?

Perhaps, 3 or 4. Haha, it's Joke.

 大体はこんな感じで。


 紗綾(さや)先生のよくわからないお願いで、お花見へと強引に連れ出された日の夜。自宅で風呂からあがった時に、僕のスマホがチカチカと点滅していた。LINEだった。


I don't want to take a picture in a croudy day, because it results in the one with dark contrast.

Therefore, I would rather see you again under the cherry blossom there than take a picture.


 長いので、Google先生にお願いして、翻訳してもらった。


「私は暗いコントラストのものをもたらすので、泣き言の日に写真を撮りたいとは思わない。ですから、私は桜の花の下で写真を撮るよりも、もう一度あなたに会いたいです」


 前半がちょっとよくわからない。先生はお花見でずっと笑ってたし、愚痴とかも無かった。でも、後半はなぁ。もしかしてあれだよね。ちゃんと回答しないとダメなやつかも。


 僕は Google先生に頼りながら、「なにかつらいことがあるなら、僕が愚痴聞きますよ? でも、英語じゃなくて日本語でお願いします(笑)」みたいな英文を作った。そして、LINEに順次投稿していく。

Dear Miss Saya,


 しかし、コピペの途中で、先生からの返信が来た。既読がつくのも速かった。

Oh! miss!


 あ、そうか。女性に向けて手紙を書くときは、MissやMrsより、Ms.がいいんだっけ。既婚と未婚のどちらにも対応できる表現だから。

Dear Ms. Saya,

 と送り直したら、先生から、次のが来た。


No, misspelled sentence above. cloudy. Not croudy.


墓場の入り口は、そんな可愛いスペルミスだった。

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