第4話 突撃勇者の生態調査

かくして、二人仲良く拘束された。両手を後ろに回し、縄で縛られている。


「わー、助けてぇー私だけは助けてー。隣の人は焼くなり煮るなりしていいから」


「って、お前俺を売ってんのか?お前の命の為に降伏した俺を売ってんのか?」


「お二人共、ご自分達の状況を理解して静かにしていただきたい」


「えー、でもー」


「サイ、お黙り。すみません、勇者様」


俺はサイを制止し、勇者風に平謝りする。

今、俺らは勇者風に捕まり、連行されている。

例の扉の中はすぐにエレベーターになっており、現在それに乗って地下にあるアジトに向かっている。結構長い。案外深くにあるらしい。


「勇者様はこれから我々をどうするおつもりで?」


「侵入者として、上に報告する。だが、もし君らに改心する気があれば一言こちらも手助けしよう」


「本当ですか?」


「あぁ、一生我ら真勇者連合艦隊の手足として働ける事を約束しよう」


「なんと素晴らしい。夢のようです」


「そうだろ。はははははっ」


満足気に高笑いをする勇者風。

何が手足だ。言っちゃあ悪いが、それはただの奴隷もしくは捨て駒だ。死んでも願い下げである。一応、今は捕まっている手前、合わせている。


エレベーターが、ようやく止まった。自動的にドアが開く。そこには先客がいた。


「よくぞ、戻ってきた。灼熱のアルドルド」


少し齢を重ねた声がした。見るとこれまた同じような勇者風の人物がいた。ただし、年齢はおじさんぐらい。その姿は痛々しい。


「あぁ、疾風の翼・ルドルフ・スター。

入り口で怪しい連中を捕まえた。こいつらだ」


「ほぉー、見かけない顔だな。まぁ、これでまたお前の功績が増えたな」


「ははは、そうだろー。でも、疾風の翼・ルドルフ・スターには負けるよ」


そう言って、二人して何が面白いのか大笑い。

サイをチラリと見る。一緒になって笑っている。馬鹿とは非常に良いものだ。


親玉の所に着くまでの間、何度となく別の勇者に出くわした。そして、お互いの名前を呼び合い、簡単な報告をし、笑い合う。

こんなのが十数回続いた。正直、二つ名を聞くだけでうすら寒い。だが、ここは敵陣。奥歯を噛みしめてグッと我慢した。


そうして、やっとの思いで中枢部まで辿り着いた。


無駄に厳重かつ派手な扉が開く。

中は天井がかなり高く、床は絨毯貼り。何人か勇者及びその仲間がいるのが、すぐ分かった。

そして、部屋の中央には漫画でよくある階段付きの王の玉座があった。そこに座る一人のイケメン風。そう、あくまでイケメン風な人物。こいつが親玉か。


「私はこの真勇者連合艦隊、艦隊長。五十嵐 セント 騎士ナイトだ。

灼熱のアルドルド、よくやった」


「はっ、ありがたき幸せ」


アルドルドくんが恭しくこうべを垂れる。

勝手に自己紹介をするあたり、さすが二つ名大好き組織のトップである。


「してその二人。お前らの目的を述べよ。さもなくば、分かるな?」


玉座から立ち上がり、わざわざ剣を腰から抜くと、その切っ先を俺に向ける。サイにはアルドルドくんが剣を向けている。

サイの方はともかく、俺に向けられたその剣はかなり距離があるので、全くもって意味がない。まぁ、気分というやつだろう。


「私は、私たちは貴方様ら、真勇者連合艦隊のお役に立つ為に、ここへ参りました」


「ほほぉ」


満更でもない反応だ。よしよし。簡単そうだ。

もう一押ししてみるか。


「是非、私たちをお使いくださいませ。私たちは貴方様らの為にこの命、喜んで捧げます」


グッと熱を込めて宣言する。気分は役者。

両手が拘束されているのが残念だ。出来れば胸に手を当てて言いたかった。そうやった方がこういうやつらに受けが良い。


とっくに答えは決まっているのに、少し考える振りをする。そんな演技はいい。とっとと本題進めろと思うが、ここも我慢。サービスでそわそわしてるように振る舞ってやる。


「成る程。そうか、それならば望みとお…」


「ちょっとまってー!」


「そうはいかないわ!」


背後からチャチャが入った。

どちらも聞き覚えのある声。嫌な予感がする。

振り向いた先には見覚えのある金髪碧眼少女に巨乳の黒髪ロングのおねぇさん(?)。間違いない。もう、終わりかけで来るなよ。来るなら序盤で来いよ。


「平安さんに団さん!」


その姿を見たサイの能天気な声。なんだ、その嬉しそうなトーンは。


緊迫した空気は一気にダレた。


……やっぱりな。言うと思ったよ


金髪と黒髪が、違うわよ、何言ってるのと抗議の声をあげる。それに対し、さも当然といった態度で、だって本当の事ですし、とさらに怒らせる発言をするサイ。馬鹿三人が低レベルな言い争いをしている。


それはさておき、こちらの状況は悪くなった。これはまずいな。

あの二人がサイに文句を言い終わった後、することは何か。考える必要もない。こちらのことを全て話すだろう。せっかくここまで来たのに、これまでの苦労が水の泡だ。


ならば、仕方ない。あの手を使おう。


俺も覚悟を決めた。


「じ、実は私、この白衣の男に催眠術で操られ…、夢愛様とジャンヌ様にひどい事を…、あぁ……」


『な?!』


俺を除く全員が同じセリフを口にした。

本当に愛すべき馬鹿の集まりだ。


「こいつは悪の催眠術師です!!」


ありったけの力を込めて叫んでやった。拘束中の為、指をさせないのが悔しい。


すると、サイはいとも簡単に自身の両手の拘束を解いてみせた。そして、白衣の袖で自身の顔を隠しながら含み笑いを始める。小さかった含み笑いは、次第に高笑いへと変わっていく。


その異様な雰囲気に周りがざわつき始める。自然と皆、臨戦態勢へとシフトする。

高まる緊張。響く笑い声。


誰もが固唾を飲んで、身構える。


「ふははははははっ。

よくぞ見破ったな、褒めてやろう。そう、我こそ地獄のマッドサイコリスト、常闇の差異サイだ!!」


皆に衝撃が走る。

最低最悪の敵の爆誕であった。


「残念だったな、五十嵐 セント 騎士ナイト

すでにお前の仲間は私の術中だ」


「なんだと…?!」


「灼熱のアルドルド、ゆけっ!」


「ああぁぁぁぁあ!!」


突然、アルドルドくんがイケメン風に向かって走り出す。目の焦点が合ってない。


地上での彼との接触の際に俺が放った弾丸と煙幕。弾丸は防犯カメラの破壊、煙幕には目くらましの意味があったが、それと同時に催眠促進剤の散布の役割があった。どちらにもかなりの量を含ませておいた。あれだけの量だ。いくら催眠術にかかりにくい人間でも、必ず効果は期待できる。


だから、この通り。あの時からずっとアルドルドくんは操り人形だ。なので、両手の拘束もちょっと動かせば取れるように結ばせておいた。



「そうはさせない」


「やめるんだ、灼熱のアルドルド」


「止まれっ!」


四方八方からアルドルドくんに向かって声が飛ぶ。

一番近くの勇者が剣でアルドルドくんの腹に峰打ちした。ぐらりと体勢を崩れる。

その身体の周囲を剣や槍が突き刺さる。ぱっと見、串刺しにされているように見えるが、刃は全て彼の体を止めているだけで本人には一切外傷はない。何とも仲間思いだ。


だが、そのせいで多くの勇者が手元の武器を失った。それが恐らく、ヤツの狙い。


「ふっ、お優しい奴らだ。喰らえ!!」


「お前ごとき、受けて立とう!!」


差異サイが玉座を駆け上がる。

艦隊長と一対一。都合良く最終決戦ぽくなる。

これはこれでちょっと面白い。


懐から取り出したナイフを構え、突き進む差異サイに長剣を構え待ち受ける艦隊長。


刹那、


差異サイのナイフと艦隊長の剣が触れた。


その瞬間、


「くっ………ああぁぁぁぁあ!」


サイが後ろへとぶっ飛んだ。

玉座の階段からの見事な落ち方。受け身も取れてる。素晴らしい。サイにはスタントマンの才能はあるらしい。


「なっ、…何が?」


勇者の仲間の一人が呟く。良いタイミングだ。俺が言おうと思っていた事を先に言ってくれた。


差異サイは床にうずくまりながら、苦しみながら艦隊長に向けて手を伸ばす。そして、最後とばかりに言葉を絞り出す。


「…な、なんだと、勇者は…勇者とはこれほど…。…我には触れること…すら……」


そう呟いて、こと切れた。悪は滅んだ。正義の勝利だ。


とは言っても本当には死んでない。多分ただの気絶だろう。


サイはともかく、こちらは仕上げだ。俺は潤んだ目で艦隊長を見つめながら、言葉を紡ぐ。


「あぁ、やはり。

やはり貴方様こそ、真の…」


『勇者様!!』


馬鹿どもの大合唱。お前ら、単純で最高だ。




悪の催眠術師VS勇者の対決。


勇者の本拠地で行われた前代未聞の大捕物は、勇者の聖なる力で悪を倒すという形で終焉を迎えた。


おしまい。



来週から勇者探索編パート2が始まります。よろしくね!



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