第8話 永遠の別離

私は再び疑いの目を向けられた上司のサポートをする為、脱獄という選択をしました。

そして、私の機転により上司も連れ、例の暗部に入ることができました。


私は敵に引き渡される際、上司の身を心配し自らが犠牲になろうとそのまま敵の手に渡りました。


そんな最悪の状況を見越して私は自分にある催眠をかけていました。


薬品で眠らされ、意識のないまま私はどこかへ連れていかれたのでしょう。

そこでは私の身体のデータを計測する為、あることが成されました。


そう、衣服を取り去ることです。


私が全裸にされたその時、セルフ催眠術が発動しました。


一糸纏わぬ姿になったら、脳を強制的に働かせ、視界に入った人物全員に催眠術をかけ、私の手足にする。

そんな内容の催眠術をかけておいたのです。


そのおかげで、私が気づいた時には暗部の研修員の半数は私の思い通りでした。


その後すぐ、私たちの流した情報を元に本部の皆さんが来てくれたのです。


で、あるからして催眠術はもっと評価されるべきです。殉職した上司もきっと私と同じ意見です。


この放送をご覧の監査官および関係者の皆さん、どうか今は亡き我が上司に祈りを捧げてください。







って内容の放送が病室のテレビで流れている。


あの馬鹿がテレビには映っている。

紛れもなく殺されたはずの馬鹿が話している。


俺は死んだらしい。


そして、生き残ったのはサイの方。


殺されたのはあの馬鹿で、社会的にも亡くなったのは俺。

生き残ったのはサイで、でも今ここにある意思は俺だ。


俺は一体どうなっている?


死んだはずなのに意識はあるし、ここが本部併設の病院の一室だと何となくわかる。以前、入院したことがあるから見覚えがある。


俺は幽霊なのか、

それともあの催眠術師、そのものが偽りか?


「えっ?反応がある」


ふと若い女性の驚きの声が聞こえた。


「…あったら…悪い……?」


「声まで?信じられない。

先生、至急至急特別病棟412号室までお願いします」


もう身体が動かない。力がない。

その一言を言うのが精一杯だったらしい。


再び闇へと落ちた。







次に目を覚ました時、既に深夜だった。

部屋はほの暗く、機器の画面の光と足元の非常灯、それと…


白衣の男?!


ベッド脇に見慣れたひょろひょろの白衣姿。


体に力は入らない。口も乾燥してて声を出せそうにない。


「気づいてしまったよ、君の正体に…」


そいつがそっと俺の顔に手を添える。手の冷たさが嫌でも伝わる。


「君の存在は僕にとって邪魔だ。だから…」


こんな形で終わるとは思わなかった。

一瞬が永遠のように思える。


「さぁ、……裁きの時だ!」


目は閉じなかった。

真っ直ぐその時を見届けよう。散っていった仲間達のように。

全ての戦場が走馬燈のように駆け抜ける。


おしまいか……。




キュッ!キュキュキュッ!




はっ?


何やら顔の上を細いものが動き回る。

サイがペンを片手に嬉々としている。俺は全て気づいてしまった。


「くそ上司め!よく生きてましたね。でも、私に言った分だけ書かせていただきます」


あの野郎、俺の顔に馬鹿と何度も書きなぐっている。間違いない。こいつはあの悪の催眠術師だ。こんな低俗なことをやるのはサイしかいない。

なら、あの時死んだのは別の人物?それとも見間違いか?


「……馬鹿め」


「声はまだ出さない方が良いですよ。と言うより気づいてください」


「は…?」


「貴方は随分と小さくなってますよ」


なん…だ…と……?

確かにシーツ越しにうっすらと見える手足は俺のそれよりかなり短い。

命は助かったが、俺の手足は…そうか。


「そうです」


先ほどとはうって変わり、深刻な表情を浮かべる。


「お気付きの通り、

あの闘いの末、敗北し……


幼い少女と書いて幼女になってますよ。


まったくどうしたんですかー?!」



……?はいっ?



「信じられない。私の上司は口の悪いゴリマッチョのはずです。なのに、なんでそんな可憐な姿なんですか?


天使ですか?妖精ですか?

耳尖ってるからエルフですか?」







事の顛末をサイに説明させた。とは言ってもこの馬鹿が知りうる範囲での話だが。


あの後、サイを奴らに引き渡した後のことは例のテレビ放送と案外変わらないらしい。

全裸で発動するセルフ催眠術のおかげで研究施設をかき回しているうちに、我らが本部部隊が突入・制圧したそうだ。


真勇者連合艦隊は暗部の人間も含め、地下施設にいた者は全て捕縛され、それと合わせて研究施設に実験対象として収容されていた多くの人が保護された。

そのうちの何人かは施設で生み出されたクローンとみられ、意思というものが欠如した生きた人形だったらしい。保護された多くの人は未だ意識もなく、ただ眠り続けるだけ。そんな中、一人の少女こと俺が言葉を発したのだ。それは当然周りも驚く。


その噂をサイも聞きつけたらしい。意思も人格も持ち合わせていないであろう一人の患者が口汚く喋ったと。

悪かったな、口汚くて。


絶対にそんなことはあり得ないだろうと思いながらも、こっそりここへ来たらしい。

そして、目覚めた俺と目を合わせた時、お得意の催眠術をかけようとした。


だが、出来なかった。


自分の催眠術にかからない、ある人物と全く同じだった。

管轄外という感覚。


その時、確信したらしい。この中身が俺だと。



また、あの暗部はその他様々な研究設備から考えるに、奴らは新しい肉体を用意し、それに人格を移し替えることによって死から逃れようとしたと推定された。だから、人格の入れ替えもあり得る。それが俺にも起きたのではないかというのが、サイの意見だった。


しかし、奴らがやっていたこと、

永遠の命の探求、不死の研究。


マジでくだらない。

いつの時代の悪党もやり尽くした悪行だった。

悪事に正解も定番もないと言われたらそこまでだが、もっと別のベクトルで動けば良いのにと思わざるを得ない。


それに、一つの疑問がある。

話を聞くに俺の遺体は見つかっていない。にも関わらず、俺は殉職扱いされている。行方不明ではなく。


いつもの癖でこの身体でも眉間に皺がよる。それを見てサイも何かに勘付く。


「もしかしてご自身の本当の身体のことですか?

うーん、これはどうかな。でも、本人は知る権利がありますし」


何やらうんうんと悩んだかと思ったらが、白衣のポケットからタブレットを取り出した。何度か画面の上で指を動かし、目的のものを出し、俺の目の前に差し出す。


「これは真勇者連合艦隊逮捕の翌日に報告されたものです。

一部有力魔族一族を取り込み、魔族により運営される主な三つの国のうちの一つ、リー大陸魔族共和国を乗っ取るとわざわざ我々に宣言してきた新興自称魔王。

厄介なことに把握している戦力だけでも、リー大陸魔族共和国を上回っていると聞きます。

そして、それがこの人物」


「………」


言葉にならないということは本当にあるようだ。その動画で宣戦布告するその人物。

魔王っぽい服装に身を包み、仮面で顔を半分以上隠しているが、その姿、




間違いなく……




「そうです。貴方です。

正確に言うと貴方の肉体と言ったほうが正しいかもしれません。

上層部も初めは行方不明で貴方の捜索をしようとしました。だが、この映像が出てしまった。

幸運にも、映像のノイズなどの要素も相まってこの映像で貴方だと気づいたのはごく一部の人間だけでした。


勇者や魔王を取り締まる職務ついている人間が、魔王にジョブチェンジなんて許されるわけありません。

なので、我々としては貴方自身は任務中に死亡、殉職扱いにしようと上層部は結論に至りました」




俺は

精神的にも社会的にも、死亡した。

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