名フレーズの法則

穂実田 凪

全ては余韻が決める

 文章を音楽に例えるなら。

 言葉は音色。

 内容はメロディ。

 語呂はリズム。

 この三つがそろって初めて名フレーズが産まれる。


 どんなに美しい音色でも。

 どんなに素晴らしいメロディでも。

 リズムに乗れなきゃ全てが台無し。


 世の中にあるたくさんの名フレーズたち。思わず口ずさみたくなるような名フレーズの共通項を見つけた。気がする。


 まず、フレーズをリズムに乗せてみる。

 拍子に乗せるとき、できるだけ単語の区切りを拍の区切りに合わせる。

 そこで大事なのは余韻の拍数。

 四拍子か八拍子を割り当てたとき、だと良い感じ。

 

 うん、解りづらいね。

 とにかく具体例を。


 □:一息つく拍

 ■:余韻の拍



【例①】

「一富士 二鷹 三茄子」

 せっかくなので正月らしく。

 このフレーズに、八拍子を割り当ててみる。

 ―――――――――――――――――

 1234 5678 1234 5678

 いちふじ にたか□ さんなす び■■■

 ―――――――――――――――――

 最後の3つの■。この余韻が全体をキュッと締める。



【例②】

「夜は短し 歩けよ乙女」

 個人的に最もセンスがあると思う小説タイトル。

 元ネタは昔の歌謡曲だっけ?

 ―――――――――――――――――

 1234 5678 1234 5678

 □よるは みじかし あるけよ おとめ■

 ―――――――――――――――――

 試しに口に出してみて。最初に一拍置いてると思うから。

 無意識のうちに、単語の区切りを拍の区切りに合わせようとしているのかもしれない。



【例③】

「乱れ雪月花」

 個人的に最も格好良いと思うゲームの技名。

 このセンスを越える技を、僕達はまだ知らない。

 ―――――――――――――

 1234 1234 1234

 □みだれ せつげっ か■■■

 ―――――――――――――

 これも上記と同じく、最初に一拍置いている。



【例④】

「花に嵐のたとえもあるさ さよならだけが人生だ」

 言わずと知れた名フレーズ。元の漢詩も凄いけど、翻訳も凄い。凄すぎて、凄いしか言えない。

 ―――――――――――――――――

 1234 5678 1234 5678

 □はなに あらしの たのえも あるさ□


 1234 5678 1234 5678

 さよなら だけが□ じんせい だ■■■

 ―――――――――――――――――

 こんな言葉をスラッと言えるような人生を送りたいものだ。



【例⑤】

「いつかなんて日はいつだ!」

 某漫画の名台詞。小学生の頃に読んで泣いた。

 ―――――――――――――

 1234 1234 1234

 いつかな んてひは いつだ■

 ―――――――――――――

 思い出して、やっぱり泣いた。



【例⑥】

「細工は流々、仕掛けは上々、あとは仕上げをご覧じろ」


 本来は、「仕掛けは上々」は無いのが正しい慣用句らしいけれど、あった方が語呂が良いので。

 ―――――――――――――――――

 1234 5678 1234 5678

 さいくは りうりう しかけは じよじよ


 1234 5678 1234 5678

 □あとは しあげを ごろうじ ろ■■■

 ―――――――――――――――――

 こんな粋な言葉を使う機会なんて、まあ無いんだけれども。



 さて、いかがだろうか。

 ■が1か3だろう?

 さあ、これでもう、名フレーズは産み出し放題だ!


 え?

 綺麗な音色を出せない?

 肝心のメロディが思い浮かばない?


 そこは自己責任で!

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名フレーズの法則 穂実田 凪 @nagi-homita

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