第6話 グッバイ、ミスター・ハイパーマン
江口が持っていた錠剤を飲むと、目の前の景色は荒いドットになって徐々に薄くなっていき、あっという間に無機質な暗い部屋の中に移動していた。
私は単身用のベッドに横になっていたようだ。その向かいにあるデスクには江口が突っ伏していて、まぶたを半開きにしながら意味のわからない言葉をブツブツと吐いている。その焦点は私の方を捉えてはいない。彼の意識はまだ向こうの世界にあるのだろう。
江口のデスクには巨大なモニターが二つ並び、片方は難しそうなプログラムのコードが画面を占有していて、もう片方には何やら名簿のような表が映し出されていた。知っている名前がちらほらある。皆、仮想世界の住人だ。
私はその中のタ行の途中で手を止め、マウスを右クリックした。頭の中に、自分勝手で乱暴な……だけど私にとっては唯一無二のヒーローの笑顔を思い浮かべて。
「……さよなら、私のハイパーマン」
〜end〜
グッバイ、ミスター・ハイパーマン 乙島紅 @himawa_ri_e
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