第十九話 <既読>にならない

 ギルドラの緊急きんきゅうメンテナンスは、結局けっきょく23時ごろまでつづいた。Twitterのタイムラインで、メンテナンスがわったらしいことを知った俺は、ギルドラを起動きどうしてみる。


【緊急メンテナンスのお詫び


サーバトラブルに対応するため

2019/09/18 17:00頃から22:58頃まで、

緊急メンテナンスを実施させて頂きました。


メンテナンス中はご利用いただけず、

ご迷惑をおかけし、申し訳ございませんでした。


ご迷惑をおかけしたお詫びとしまして、

クリスタル 5個を進呈いたします。


今後とも、ギルドラをよろしくお願いします。

 とメッセージが表示され、≪詫び石≫が配られた。≪詫び石≫とは、ゲームのシステムトラブル発生時にユーザにお詫びの品として配られる課金アイテム——ギルドラではクリスタル——のことを言う。

 あの廃工場周辺で、いちはやく首無しを手に入れたコアゲーマーたち十人じゅうにんほどが「首無しくなった!クソ運営うんえいふざけんな!」とネットに怒りをぶつけている。

「サーバの、メンテとダウンは、ネットの華ってね」

 と七五調しちごちょうでつぶやく。うちの親父しんぷがいつだったかっていた言葉ことばだ。20世紀末せいきまつからネットを使い倒してきた親父らしい言葉ではある。

「ま、そんな荒れたところで仕方しかたないことでしょ」

 俺は、淡々とポイントを稼ぐ作業さぎょうを行う。ギルドラのカード強化きょうか、レベルアップのため、俺の中で決まった作業が存在そんざいする。それをいつも通りにこなす。それが終わると、タイミング宇陀川うだがわからLINEのメッセージが来る。

<マルチプレイやろうぜ>

 まぁ、付き合ってやっても良いかとおもった俺は、

<やろうか。ゲーム立てる?>

 と聞く。

<いや、もうゲーム立ててるからこっち繋げよ>と宇陀川。

 俺は、ギルドラの【マルチプレイ】から、【友だちのゲーム】をタップ。≪UDA≫こと宇陀川のゲームをつける。ボイスチャットがONになると同時どうじにワイヤレスイヤホンを身につける。

「おう」「うす」と、宇陀川と毒島ぶすじまこえ

「うっす。あれ蛭田ひるたくんは?」と俺が聞く。

「なんかあいつ、LINEも<既読きどく>にならないんだよな」と宇陀川。

「……寝てるのか?」と毒島が言う。

「まぁ、来ないヤツは仕方ない。三人さんにんで始めるぜ」と宇陀川が言うと、マルチプレイでの協力きょうりょくクエストがスタートする。何ゲームかやったが、ぼちぼちの成果せいかはあったが、これというアイテム、カードは入手にゅうしゅできなかった。

「こんなとこにしとくか」と宇陀川。

「うむ」「そうだね」と毒島、俺が応じる。

 その日のマルチプレイはそれで解散かいさんとなった。


 翌日よくじつ学校がっこう、その日も、いつも通り淡々と授業じゅぎょうが進んでいく。昼休みに二組の前を通りかかると、蛭田の机には荷物にもつが無く、学校に来ている様子ようすがない。

「あれ?今日きょう、休みなんだ?」

 俺は、言った。

「あぁ、そうだな」

 椅子いすに踏ん反り返って座っていた宇陀川が、興味無さそうに言った。

相変あいかわらず、連絡取れないんだよなぁ……」

 と宇陀川の脇で、所在無げに立っている毒島が言う。

「なんでだろうね?」

 と俺が言うと、宇陀川のケータイが鳴った。音声着信だ。

 宇陀川はケータイを手に画面がめんを見ると

「知らん番号ばんごうだな……だれだ、これ?まぁ、出てみるか」

 と言って電話でんわに出た。

「ん?はい……そうです。宇陀川です。はい……」

 と丁寧に応対おうたいしている。なにやら大人だいにん会話かいわしているようだ。

「ちょっと、わからないです。僕も連絡取れなくて。はい。はい、失礼しつれいします」

 言うと宇陀川は電話を切った。

「誰だったの?」

 と俺が聞くと

「うん……蛭田の親だ」

「何だって?」

「家にもいないみたいだ」

「……それって、つまり行方ゆくえがわからないってこと?」

「そう……なるかな」

 宇陀川は、どういう表情ひょうじょうを作れば良いか困っているように見えた。

 俺にも何か嫌な胸騒ぎがある。

「そうか……」

 と意味いみも無く、つぶやく。

 少しして、毒島の電話も鳴る。かけてきたのは蛭田の親だった。

「はい……わかりません。はい……」

 と毒島が電話を切る。内容ないようはやはり、蛭田の行方を尋ねるもの。

 蛭田の所在しょざいがわからない。

 

 そのまま彼の行方はわからず、その日の夕方ゆうがた

 警察けいさつに蛭田の捜索願いが提出ていしゅつされた——

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生け贄ガチャを回すとき…… 石丸慎 @isi

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