性格が多少拗ねている私は「本当に最後の日なのか?」と疑いながら読み進めておりました。少なくとも登場人物達は最後の日だと信じて行動しています。
本作品は登場人物達の行動を淡々と記述するばかりで何の捻りも有りませんが、その丁寧な描写に私の拗ねた心も素直になり、最後の一日を過ごす人々に共感し始めました。
自分が作中の状況に陥っても、安寧の気持ちでこういう行動を取りたいものだと思いました。
作者の他作品では「人格メモリー」「片付け彼氏彼女」「朝ゴハン」を読みました。いずれも捻りなりオチが有ります。それらと比べて、本作品には捻りもオチも有りませんが、私は最も気に入りました。
短編にはMAX2つが信条なんですが、琴線に触れたので星3つにしました。
今日、世界が終わる。それは誰も逆らえない運命である――それを突きつけられた世界中の人々が迎えた『最後の日』のうち、1組のカップルに焦点を充てた作品。
全てが終わる中、町は荒れ果てインフラも消え失せかけた世界の中でも、最後まで普通の日常を過ごし続ける人もいれば、残された人々のために奮闘する人々、そして生き残る事を約束されたであろう人も存在します。そんな人々との出会いの中、カップルはどのような時間を共に過ごす事になるのか……。
何かが消える時に見せる最後の輝きのような、たくさんの出来事の中で交わし合う優しさが、儚く切なく、そして美しく見えるかもしれません。
まずタイトルが、語呂よく綺麗なので惹きつけられます。これがもしかしたら一番大切かもしれない。
全体としては、世界が終わる最後の日にデートをするカップルのお話。実際、こんなカップルいっぱいいます。カフェ行って、水族館に行って、これだけなら普通のデート。
でもそこに世界が終わる、とくるからどうにも切ないやら愛しいの気持ちが湧き上がってくる。
これは勝手な解釈ですけど、SFである意味をちゃんと持っているなと感心しました。現代社会からいたずらに遠くしたわけじゃない、隕石なんか落ちなくても度合いの違いはあれ現代社会は停滞してるんだから。それを訴えた上で、KANみたいなこと言いますけど、「必ず最後に愛は勝つ」を示してくれた。
それが個人的には、ポイント高かったです。
詳しくは触れませんが話の題材としては定番で新奇性のあるものではありません。
わりと序盤で種明かしをしてしまっていて、ここからどうやって物語を牽引していくのかと思っていたのですが、もしかしたらという可能性を残すことで種明かし後も先を読ませる牽引力を維持しているあたりは、なるほどこういうやり方もあるのかと感心させられました。
しかし、この作品の面白さというのはストーリーや設定の新奇性に依存しているものではありませんから、そんなことのすべては実は大した問題ではないのです。
自然と語り部に移入させる語り口と、描かれている情景の退廃的な美しさこそがこの作品の核心でしょう。なにを言っても無駄な予断を助長することになりかねないので、ただ素直な気持ちで読み進めてみることをおすすめします。