【Episode:Last】 安寧の眠り -Eternal Rest-

新しい世界

 あるアーコロジーの屋上庭園では、三人のまだ幼い子供達が、遊んでいた。


 ハルキは、そこから離れたバルコニーで、膝かけをかけて揺り椅子に揺られながら、その様をぼんやりと眺めていた。


 あれから、六十年以上がすぎた。

 今では、身体中皺だらけの、杖をつかないと歩けない白頭の老人となってしまった。


 その長い時間を経る中でも、『大いなる災禍ファータル・カタストロフィ』で失った家族や、あの時散っていったプラセンタの皆のことは、一度も忘れたことがなかった。


 こうして瞼を閉じると、今でも、あの頃のことが脳裏によみがえってくる。


 あの頃は、まだ二十歳にもならない高校生だった。

 劣等感に苛まれながらの毎日。

 それでも、楽しかった。

 仲間がいたから。

 そんな自分でも愛してくれる皆がいたから。


 今の自分は足を悪くしているが、この夢のようであり、現のようでもある世界においては、そうではない。

 二本の足で、大地を踏みしめながら、立っている。

 若かりし頃と同じ姿で。


 その視線の先にいるのは、亡くしてしまった皆。


 父さん、母さん、名もないままに死んでいった弟。

 ノア。

 ジーク。

 ソフィアさん。

 サミー。

 アレクシオさん。

 叔父さん。

 アラタ。

 カホ。

 ヒロト。

 ジュリアン。

 デニス。

 オスカルさん。

 ヨハンさん。

 リンドブルム。

 足利さん。

 リヤンさん。

 蒼雪ツァンシュェさん。

 桧川さん。



 皆、花畑の中で、笑いながら、こちらに向けて手を振っている。

 いつもなら、笑みを返すだけで、踵を返すのだが、今日は自然と足が前に進んだ。 


 眠りたい。

 彼らの元で、その優しさに包まれながら――。



「ねえ、おじいちゃん」

 先程まで遊んでいたハルキの孫の一人である娘が、その元に寄って来て、膝に手をそえながら声をかけた。


「眠らせてあげなさい」

 ハルキの背後に立っていたシオンが、言いながら、優しく孫娘の頭に手を添える。彼女もまた、今では白髪まじりの老女。ただそれでも、どこか高貴な美しさというものを失わずに湛えている。


「でも、私、お祖父ちゃんのお話が聞きたい」

 孫娘がぐずるも、

「だめよ」

 シオンは優しくそれを咎めると、

「ハルキお祖父ちゃん、眠りたそうにしているでしょう?」



 ハルキは、その声を耳にしながら、そのまま、深い眠りへと落ちていった。


 あの頃、ともに笑い、泣き、戦った皆の待つ、安らかなる地へと。



 そっと、静かに――。


                 (了)

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終わりの神話 雨想 奏 @usoukanade

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