本格ミステリィ(作者の拘りに倣ってこう表記します)は逆行する物語だとよく言われます。それはつまり、事件が起き、手掛かりを得て推理して、時間を遡って、事件に至るまでの経緯を理解していく、ということです。
多くの物語が「これからどうなるんだろう?」という「未来」が読者の興味となることに対して、ミステリィは「どうしてこうなった?」という「過去」が読み進める原動力となります。(だから、いつまでも事件が起こらないと読者は、「いつ事件が起こるんだろう?」とは思ってくれず、「まだ事件が起きないのかよ!」と怒ってしまうのです)
こういった特殊な物語を記すために、ミステリィを書く作家は通常の小説を書く以上の労力を使っているのです。
過不足なく(自然に)手掛かりを提示し、情景が頭の中で容易に再現できるような描写をし(館もので必須です)、キャラクターは個性を持たせつつ、出しゃばらず。かといって、ただの「クイズ」に陥らず、「物語」としての完成度も当たり前のように求められる。
本作「百夜白夜の消失」は上記ハードルを全てクリアした上質の本格ミステリィです。「読者を楽しませよう。驚かせよう」という作者の機知に溢れた物語は、最後の最後までサプライズを用意しています。
地に足が付いて、かつ軽やかで分かりやすい文体は、「烏賊川市シリーズ」でおなじみのミステリィ作家、東川篤哉を思わせ、ミステリィ初心者にも、すっと入って行くでしょう。
孤島、密室、覆面の人物、意外な犯人、そしてこれは言えないけれど、ある仕掛け。本格のガジェットが隈無く用意された、マニアから初心者まで万人にお勧めできる「本格の教科書」的一作です。ぜひ、ご一読を。
ミステリーもの。
ミステリー作品にお馴染みの孤島を舞台に、集ったミステリーファンによる謎解きツアー。普段あまりミステリーを読まない方でも比較的入りやすいライトな雰囲気であり、スラスラと読み進められる作品となっております。
しかしライトな雰囲気とは裏腹に、内容は本格的で読み応えがあります。数々のヒントとともにミスリードがちりばめられており、物語としての面白さと同じく読み手として謎を解き明かす楽しさもある作品です。そして最後に明かされる真実ですが、これまた予想の斜め上を行く意外性があり、読み終わって思わず「やられた―」と呟いてしまいました。挑戦ということであれば、私は見事に完敗しましたね。
ミステリー作品なので詳しいことは書けませんが、魅力的な内容であり読み終わった後満足のいく作品となっております。これは是非読んでみて、その謎を堪能してみてください。面白かったです。ごちそうさまでした!