生まれは選べない。けれど、誰を信じ何をとるかは選べる

ストーリーの概要や世界観、設定については他のレビュアーさん方がきれいにまとめてくださっているのでそちらを。自分はこちらの作品の真髄と(勝手に)思う人間ドラマについて熱く語りたいと思います。以下、詳細なネタバレはないので「ネタバレを含む」にノーチェックとしましたが、抽象的にネタバレしているのでご注意ください。


主人公陣営と敵対する陣営には、生い立ちや境遇がよく似ている人物たちがいます。
かたや諜報員、かたやマフィア──。所属は違えど、同じく裏社会で暗躍する彼らの道は重なり合うことなど有り得ません。しかし、奇妙な縁のようなものに誘われて時に近づき、そして交差し、対立ではない別の可能性もちらつきます。その道筋と、気持ちの揺れ方や移ろいの描かれ方が見事です。

最初は精緻な文章と重厚な世界観、手に汗握るアクションシーンをシンプルに楽しんでいたはずなのに、いつしか彼らの進むプロセスに夢中になり、高揚したり、もどかしい思いを抱いたり、居たたまれない思いになったりと感情のジェットコースターに強制乗車させられて忙しくなります。そして、その頃にはこちらの作品にどっぷり浸かっており、先に進む手を止められません。

スタートは同じといっても良いほど似通っていたのに、関わる人物や経験、彼ら自身の選択の連続によってそれぞれの終着地点にたどり着きます。終盤の盛り上がりからラストまでの怒涛の流れもほんとうに素晴らしい。

理知的だけれど、諜報に不向きとまで形容されたやさしさと熱さを内包した主人公、結。心に屈託と葛藤を抱えながらも、向上心をもち続ける章彦やエリー。直情径行で純粋なレッシュ。そして、冷徹なようで繊細さと脆さを秘めたリカルド。他の面々も含め、皆魅力的でていねいに描かれているため、推しキャラが必ず見つかります。

66万字、文庫本相当で5,6冊という昨今のweb小説の潮流に全力で抗っている大ボリュームですが、世界観、ストーリーの構成と展開、キャラの作りこみ……そのすべてが完成度が高く商業作品でもなかなかお目にかかれないほどのレベルです。読書好きならば、ぜひ彼らの行く末をご自身の目で確認してください。

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