鼻水をすすって泣いた。こんなの、泣くしかない

物心つく前に、別々に生きることになった双子の兄弟。アメリカ育ちのエリート青年となって突如目の前に現れた弟を妬みつつも、自己嫌悪に苛まれるばかりの金髪ニートの主人公、雅樹。しかし、恵まれた者のように映る弟も、なにか陰のようなものを抱えているようで、それに気づいた雅樹ははじめて弟のことを知りたいと思うようになる。

夢と現実、自分と他者のあいだで揺れる青年期の葛藤が、まさに雪の結晶のように繊細で精密な文章でつづられており、美しい心理描写に絡めとられるようにして作品の世界に引き込まれた。

過去と今を行きつ戻りつ、皆のように未来に向かって歩きはじめたいと願う主人公、雅樹がどのようにして一歩を踏み出すのか、その目でぜひ確認していただきたい。

ちなみに、二度読むことを強くお勧めする。
結末を知ってから読み返すと、主旋律のうしろで奏でられていた副旋律におのずと目が行き、よけいに泣ける。