諜報活動を行う組織に属する主人公。
彼はただの諜報員ではなく、普通の人には無い特殊能力を持っている。
そんな主人公は同じような能力を持つ仲間たちと共に、犯罪組織など危険な人物たちと渡り合っていく……という感じのハラハラドキドキできる物語です☆
普通の人とはかなり違う仕事をしている主人公が、悩んだりしながらも仕事に取り組んでいる姿に好感が持てました。
主人公の周りの人たちも、それぞれ彼らなりの問題を抱えていて、主人公以外のキャラたちにも人間味があってかなり感情移入しました!
特に感情移入したのは、とある悪役たちですね。
悪い人たちなんだけど、共感できるところもあって、主人公に勝って欲しいような、でも悪役が倒されるのも見たくないような、複雑な気持ちを味わいました。
スパイが登場するようなアクションシーンのある洋画がお好きな人に特におすすめ!
ストーリーの概要や世界観、設定については他のレビュアーさん方がきれいにまとめてくださっているのでそちらを。自分はこちらの作品の真髄と(勝手に)思う人間ドラマについて熱く語りたいと思います。以下、詳細なネタバレはないので「ネタバレを含む」にノーチェックとしましたが、抽象的にネタバレしているのでご注意ください。
主人公陣営と敵対する陣営には、生い立ちや境遇がよく似ている人物たちがいます。
かたや諜報員、かたやマフィア──。所属は違えど、同じく裏社会で暗躍する彼らの道は重なり合うことなど有り得ません。しかし、奇妙な縁のようなものに誘われて時に近づき、そして交差し、対立ではない別の可能性もちらつきます。その道筋と、気持ちの揺れ方や移ろいの描かれ方が見事です。
最初は精緻な文章と重厚な世界観、手に汗握るアクションシーンをシンプルに楽しんでいたはずなのに、いつしか彼らの進むプロセスに夢中になり、高揚したり、もどかしい思いを抱いたり、居たたまれない思いになったりと感情のジェットコースターに強制乗車させられて忙しくなります。そして、その頃にはこちらの作品にどっぷり浸かっており、先に進む手を止められません。
スタートは同じといっても良いほど似通っていたのに、関わる人物や経験、彼ら自身の選択の連続によってそれぞれの終着地点にたどり着きます。終盤の盛り上がりからラストまでの怒涛の流れもほんとうに素晴らしい。
理知的だけれど、諜報に不向きとまで形容されたやさしさと熱さを内包した主人公、結。心に屈託と葛藤を抱えながらも、向上心をもち続ける章彦やエリー。直情径行で純粋なレッシュ。そして、冷徹なようで繊細さと脆さを秘めたリカルド。他の面々も含め、皆魅力的でていねいに描かれているため、推しキャラが必ず見つかります。
66万字、文庫本相当で5,6冊という昨今のweb小説の潮流に全力で抗っている大ボリュームですが、世界観、ストーリーの構成と展開、キャラの作りこみ……そのすべてが完成度が高く商業作品でもなかなかお目にかかれないほどのレベルです。読書好きならば、ぜひ彼らの行く末をご自身の目で確認してください。
個人的に、読みながらふと思い出したのが、J・J・エイブラムス監督の『ミッションインポッシブル3』という作品。あの映画を見たときも、
「いやあ、諜報とアクションと、本業を隠した恋愛とを、すべて一つの作品の中でまとめるって、なんて難しいことを平気でやってるんだ」
って思いましたが、この『摩天楼の翳』では、そこに『異能』という、それ以上の要素が加わっています。
諜報とアクションであれば、当然、登場人物たちはその世界にどっぷりのほうが書きやすい(と思う)。そこに身近な要素が入ってくると、どうしても話が脱線したり、破綻したりしがちですが、『摩天楼の翳』ではそれがない。読みやすく、するすると読み進んでいくうちに、個々にしっかりと書き込まれた登場人物たちに共感を抱きやすく、さらに場を盛り上げる戦闘、格闘アクションが要所要所で差し込まれ、つい先へ先へと読み進んでしまう。エンターテインメントとしての面白さがしっかりとあります。
しかも、ROUND3まで読ませていただいたあたりで、どうやら初稿は2000年より前っぽいもんなあ。『MI3』、確か2006年の映画なんだもんなあ、よくこんな難しい内容を平然と、しかもエンタメとして面白く書きだせるなあ、と感心しきりで読ませていただいています。
話を読むにあたり、一番感心したのはサブタイトルの付け方が実に巧妙だという点である。
各章のハイライトを抜き出してタイトルにしているのだが、それがもう次の話への想像力を膨らませてしまい、どんどん読み進めてしまった。
特に「見込み違いね」などは読者の興味を引くには絶品なのでは?と勝手に思っている。
また最初から全てを説明してしまうのではなく、徐々に細部が明らかになる技法も、そのタイトルの付け方に合っていると思う。
全体的にバランスの取れた作品である。
個人的にSEという業種なので、「SEもして諜報員もしたらマイルストーンがフィックス出来ないのでは?」などと余計な感情移入をしてしまった。
別作品「まいかたチャンプの挑戦」の主人公、照子さんの恋人である青井結が主人公の物語。
普段は平凡なSEに身をやつし、その実様々な場所に潜り込んでは秘密や犯罪行為を調査する青井さん。
彼は私設諜報機関のエージェント、すなわちスパイだったのです!
前述の別作品を読んでいるときっと余分に楽しめると思いますが、この作品単体でももちろん面白いです。
こちらは作者様の代表作である同名作品のリメイク版。
リメイク前の作品は読了済の私ですが、もう一度初めて読むような気持ちで作品を追い掛けていきたいと思います!
現時点では、まだ序章も序章。
この先、どんどん魅力的なキャラクターたちが登場してくるかと思うと、今から楽しみで仕方ありません。
もちろん、主人公の青井さんの活躍も期待しています!