少年少女の平和な日常は突然に崩れ落ちる。
とある事件で特殊であったことが発覚した少女は、非道な人体実験の道具にされる。
少年はその少女を救うべく、ロボットに乗る。
そう、自身もまた人間で無くしていきながら――
物語の序盤から苛酷で苛烈な展開が続き、主人公がどんどん人間でなくなっていく様には大いなる悲壮感があり、その中でも純粋な「フユを救いたい」という想いだけで走る少年の姿に、幸せになってほしいという願いを読者に抱かせますが、しかしそうは世界が許してくれません。
後半に明かされる重大な謎からのスピード感がある展開。思わず後半部は一気に読んでしまいました。
KRF大賞に文句なしで相応しい作品です。
ロボット好きもそうでない方も、是非とも読んでほしい作品です
とてもおススメです。
エルンダーグは狂気のロボット兵器である。敵性勢力の存在を強引に人型に形成し、それをコントロールする為に人間の価値観を持つ存在をただの部品として扱い、文字通りに地上への帰還どころか作戦を成功させ無事に帰還する事すら半ば投げ捨てた特攻兵器と呼んでもいいだろう。だがしかし、たとえパーツとして扱ったとしても最後まで搭乗者であるハルと共に長い時を戦い抜いたエルンダーグは文字通りの半身であり、そして相棒だったのだと思う。最後に全てが消えてしまうとしても。少年と少女の手に残ったのは成し得た成果と比べれば本当に小さくささやかなものでしかない。けれど本当に片手に収まるようなそれを手に入れる為、長い時間、遥かなる宇宙の果てまで、エルンダーグとハルは駆け抜けて―― その最後が文字通り地球を滅ぼしかねない愚行であったとしても共に貫き通した事に価値があった――
と、途中まで真面目な感じで書いたけどダメだね。こんなこと皆言ってるよ! じゃあ何を書けば良いかって? 決まってる。エルンダーグがどんだけロマンの塊かって事を書くしかねーだろうさ!
まずパイロット。お腹に強引な循環ポンプを突っ込み毛細血管レベルで強化、限界を超えたGがかかっても平気にする。普通なら慣性制御の一言で済ませる部分をここまでおぞましくも強引に推し進めるのは文字通りのロマン。
次に発射シーン。キノコ雲を立ち昇らせながら発進するロボットなんて中々いないというか下手するとこれだけで基地の機能が停止する恐れがありそうなのがロマン。
更に火器。609.6mm試製甲型電磁投射砲と書いてブリッツバスターと読む! この時点でロマンの塊というか下手しなくとも人類史上最大の口径を持つ火砲ではなかろうか? 実戦ではこいつで接射までかますとかもう脳汁が出ない奴はロマンが不足してるね。エルンダーグで摂取しろ。
そして当然の殴る蹴るの暴行! そうだよ! 人型ロボットは最後はそれなんだよ! 指が構造上脆い? 足を使うとバランスが崩れる? 細かい事を気にしてるとロマン不足で死ぬぞ? ほらエルンダーグで摂取するんだ!
この他にも色々あるけれどそれは本編を読みながら摂取してくれ!ぶっちゃけ僕がレビューとして纏めた100万倍位のロマンが詰まってるから!
さぁ、ページをめくれ! 僕だって最初は鬱エンドだろう? って躊躇したけど読んでいるうちにそんなこたぁどうでも良くなる! 逆にどんなそこまで墜ちる結末になるのか楽しみになってくる始末! まぁそんな僕が考えられるようなチンケな悲劇なんてものを遥かに超える結末が最後に襲われたんだけど……
というかここまでレビューを読む前に本編に手を付けるんだ! さぁ早く! ……え、もう読んだ? なら僕が言いたい事は分かるだろう? エルンダーグは最高だぞ!
原初、ロボットとは友であった。涙を流すことも言葉をしゃべることもなく、それでも主人公の心を映して友情と正義のために力をふるう、血潮を分かち合う兄弟であった――
いつからだろう? 搭乗型のロボットがともすれば主人公を欺き蝕み、あるいはその血肉を食らい時に全人類を滅ぼして顧みぬ、裏切りの器である可能性をにおわせながら描かれるようになったのは。
この作品は、ロボットがそうした不穏な存在として描かれるようになった時期に重なる潮流である、セカイ系の外観をなぞるように描かれている。発端から途中まで、その展開はあまりに不穏で悲劇の予感に満ち、痛々しい。
少年を導くべき大人たちは保身と欺瞞に身を鎧い、或いは科学という名の狂気にとりつかれて、少年とその幼馴染のヒロインを、無残な饗宴の贄としてテーブルの上に引き据え、哄笑するモノのように描かれる。
そんな中で少年が身を委ねさせられるロボットが、まともであろうはずなどない。現に、エルンダーグはそれ自体が少年をさいなむ拷問装置のようにおぞましく無慈悲に機能し、彼と少女を相対論的時間差の中へ引き裂いてしまうのだ――
だが、しかしである。
補給すらままならぬ宇宙の彼方へ彼を連れ去りながらも、エルンダーグは決して裏切らないのだ。
少年の意思を、悲しいまでの願いを、不屈の闘志を、肉体の限界すら凌駕する執念を、そして彼が人間性を捧げて手にしたその性能に対する信頼を!!
こんな熱いロボがあるか? あったか?
断言する。ない。これほどまでに血みどろで苦痛に満ち、孤独と絶望に締め上げられながらも、エルンダーグは決して止まらない。沈黙しない。斃れない。
これほど熱く、読者の期待を上回り、天上天下に自らが最強にして絶対の存在であることを叫びとどろかせるロボットを、私はこれまで見たことも聞いたこともない……まったく、冗談じゃないよ!!
セカイ系ではない。これはセカイの全てを敵に回してなお圧倒的な力で蹂躙し焼き尽くす系の物語だ。
神にも悪魔にもなれる、と数多の搭乗者たちを誘い呑み込んできたスーパーロボットの系譜の中で、エルンダーグこそが、ついに現れた少年の希求の全てを叶え具現化する存在なのだと、滂沱の涙を流しながら読了した。
喪失したもの全てを取り戻すことはかなわずとも、これは紛れもなくハッピーエンドだ。踏みぬかんばかりに操縦ペダルを操り続けた主人公の足が、再び踏むのは、二度と届かないと思われた安らぎの道を行くためのペダルだった。まさかこれほどの結末が用意されているとは。
いまだ数多い春秋に恵まれ、無限の可能性を秘めた本作の作者が、今後も小手先の「泣ける」「感動する」といった作劇に溺れることなく、この真正面からの王道を描き続けてくれることを期待してやまない。
素晴らしい無敵のロボットを、本当に、ありがとうございました!
質量を感じる作品である。
つまりは慣性と重力であるが、慣性という名の感性であり重力という名の獣力を以て、作者である鉄機 装撃郎 氏は、この存在感ある作品を完成させたのだと叫ばせてもらおう。
コイツは何を言っているんだ? と思われた方もいるかもしれないが、ワタシも何を書いているんだ? と感動に戸惑いながらのレビューなので安心して欲しい。
安心出来ないか、だが作品のクオリティは、保証させてもらう。
話は逸れるが、氏の前作『老潜機鋼ヘルダイバー』(公募の為、現在未公開)を読了したときにも感じた力量の伸びを、今回も感じた。
好きなことを書く、突き詰めていけば、こうもなるか、と。作品を完結させる度に、ひとつのリミッターを解除していくかのようである。読者として実に喜ばしい。同じ書き手としては実に妬ましい限りであるが(笑)
さて、『墜奏のエルンダーグ』に戻ろう。
我が身を化け物に変え、愛機を魔神へと変え、世界を敵と変えてまでも。
その少年の重い想いは、揺らぐことなく愛する幼馴染みを救うという芯より動かされることはない。強い想いは慣性を得てフルスロットルのまま未来――結末まで辿り着く。
この質量である。
あまりにシリアス。
あまりにグロテスク。
あまりに稚拙なまでの、されど純度の高い少年の幼い恋心を、この暴力的なまでの加速度を、カタルシスと呼ばずに何と形容しようか。
広大な絶望の闇の中で、小さな希望の光は確かに輝く。
刻は巡り、季節は巡り、フユの元にはハルがくる。
If winter comes, can spring be far behind?――冬、来たりなば、春、遠からじ。
墜奏のエルンダーグ――それは、あの季節へ、辿り着く為だけの戦いである。