第十話

「カモォォォン!レッツパァァァァァァリィィィィィィィィィ!!」


突然右から轟いたこの声……、まさか!


「こっからは、この大西洋が暴れる時間だーーーーーーーー!」


大西!?なんでここに!?


「オラァ!そこだぁ!」


「うわ!」


「何だよ!?」


「ナンデーーーーーー!?」


「うっしゃー!エアコキでトリプルキルだぜ!信じらんねぇ!」


突然左から現れた大西はそのまま謎のハイテンションのままヒャッハーズに突撃し、俺に気を取られていたヒャッハーズはそのまま大西の餌食となった。苦戦してた俺がバカみたい……。

って、余計なこと考えてる暇はない。大西が左のヒャッハーズを片付けてくれたおかげで残るは右のスナイパー二人のみ。


「何だあいつ!」


「迷彩服だ!撃て!」


叫んだおかげで二人の照準は大西に向いた。今なら……!



  バララララララララララララララララララララララッ!



「いていていて!」


「いって!顔は勘弁!」


セレクターをセミオートからフルオートに切り替えて掃射。ダブルキル。脅威を排除。


「んんwwwwwwwwwwwwwこの駆動音はサブマシンガン。まだだれかいるのかな?wwwwwwwwwwwww」


大西がこっちに気づいた。つーかモーター駆動音で銃の種類がわかんのかよ。地獄耳を通り越したな。

このゲーム俺らは共闘を禁止されている。だからあいつの今のテンションだと間違いなく俺に勝負を挑んでくるだろう。しかし、大西の武器がエアコキハンドガンである以上、俺は負けることはない。軽機関銃三丁のヒャッハーズがやられたのも意識が俺に集中し、背中ががら空きだった、要するに完全に油断していたからだ。今の俺なら攻撃すべき相手の情報が正確にわかってるため三国〇双よろしく一騎打ちしても問題ない。だが…、


(なぜだろう?それだけは避けた方がいいような気がする…)


予感めいたものが俺の心に渦巻く中、


『みんなお疲れ様ー。何人かヒットしたようだけど、順調だねー。ここからイベントルールが加わるよー。フィールド内にうちのエーススナイパーが一人潜入したから注意してね。撃たれたらヒット判定だから、ルール厳守でお願いね。以上みんなの健闘を祈るよ』


この通信の後、フィールドが余計に静かになったのは言うまでもない。



『みんなの健闘を祈るよ』



……………は……………?



左耳に着けたインカムから聞こえてきた部長氏の放送を聞いて、俺こと大岩孝史は一瞬思考が止まった。

イベントルール? エーススナイパー? 部長氏は何を言ってるんだ? まさかこれが最初の説明会で言っていたオリジナルルールなのか? だとしてもスナイパー一人でどうこうできるとは思えない……。

確かにこのフィールドにいるのはほとんどがサバゲー未経験者だが、数は圧倒的に多い。下手な鉄砲数撃ちゃなんたらだ。


(今深く考えても仕方がない…か…)


あの通信は全体に伝わっているはず。恐らく今俺に迫っている連中の足が鈍っているのも、通信のおかげだろう。近づきたいが、うかつに動けば例のエースさんに撃たれかねない。けど…、


「うぉ!ヒット!どこから!?」


「こいつうまいぞぉ!気を付けろぉ!」


声を張り上げてくれたおかげで位置がつかめた一人をキルし、すかさずリロード。


(エースさんが来る前に、こいつらは俺が仕留める)


そう思ってコンバッ〇越前で有名な某ゲームの登場人物のような事を叫んだ奴に照準を合わせた途端、


「いて!やられた!」


誰もいないはずの、俺から見て左側から飛んできたBB弾によりキルされた。

一体誰がと一瞬思ったが、森の中を気配無く、音もなく近づいてキルを奪うことが出来るのはこの状況では一人しか思い浮かばない。

ゆっくりスコープを覗いたまま銃を左に旋回し、慎重に索敵をする。すると、


(……いた…………)


ポンチョタイプではなく、カッパタイプのギリースーツを着込み、グリーンやブラウンなどの森と同化するように装飾された迷彩のブーニーハットを被り、グリーン、ブラウン、タンの三色のフェイスペイントを施した狙撃手の手には、同じように三色でペイントされたM24が握られている。


(にしても堂々と姿を見せるとは、随分なめられたもんだねー)


スコープ越しに見る相手の顔は…………にやけてる。まるでこれから狩り(・・)を始めようとしているハンターのように。勿論獲物は俺らだ。


(まさか最初・・の(・)ターゲット(・・・・・)が俺とはね……、あながち、俺の予想は間違ってなかったのかも)


この時俺は、このゲームが俺たち三人にとっての試練であることを理解するのと同時に、ゲームがもっと激しくなることを確信した。



「なにこれー!?こんなの聞いてないよー!?ねーアーちゃん!?」


私、松島まつしま美波みなみは部長さんからの連絡を聞いて思わず声をあげてしまった。


「え?う、うん。そうだね…」


私の横でうなずいているのは、この学校に入学して間もなく知り合った長良ながら亜季あきちゃん。


「んもー!あーしろこーしろって言う割には予定にない事やってー!これじゃ私たちの手柄が減っちゃうじゃん!」


「ミナミ、落ち着いて」


「そんなこと言ったってー!チーちゃんはどうなのさ!?もしエーススナイパーっていう人があの三人を倒しちゃったら優先入部の権利がなくなっちゃうんだよ!?」


そう、何を隠そうこのゲームにはあの三人だけには知らされていないルールがあって、それは、あの迷彩服三人の内、誰か一人でも倒せばその時点で入部が決まるのだ。しかもそのためなら協力してもいいと言われている。


もう一人の相方、ゲーム途中で合流した基本無口の伊い縄なわ千代ちよちゃんに聞き返す。


「大丈夫。あの三人なら問題ない」


「んもー!その余裕はどこから来るのー!」


「ミナミちゃん落ち着いて…!誰かに気づかれちゃうよ…!」


「うー!もう決めた!私達でエーススナイパーとかいう人を倒しちゃおう!」


「えー!」


「…………」


それぞれの反応が返ってきた。


「やっちゃおう!私達なら行けるって!チーちゃんもいるんだし!」


そう、何を隠そうチヨちゃんは私とアキちゃんと合流する前に三人を倒しているのだ。だから大丈夫!


「無理」


「え!?なんで!?」


どうして!?


「あのスナイパーは次元が違う」


「どういうこと?チヨちゃん」


アーちゃんが聞いた。


「私はどちらかと言えばアタッカーだからスナイプは向いてない。三人倒せたのも、みんな初心者だったから」


「つまりどういうこと…?」


「三人倒せたのは運が良かっただけ。偶然」


「そんなことないよー!私達が危なかったとき、一発で倒したじゃん!」


「あれも偶然」


「あーーーーもう!じっとしてらんない!とにかく行こう!」


「あぁ!まってミナミちゃん!」


「………………」


そういって私たちは一番近い出口に向かって走り出した。



「なん…だと…」


エーススナイパーを送り込む?唐突にもほどがあるだろ!全く考えが読めねーぜうちの部長は。

とにかくつぶそう。最優先でつぶそう。射程距離全然違うけど相手も同じエアコキだ。いけるいける。

そうと決まればさっきのサブマシンガン、もとい陣であろう奴は放置だ。奴も馬鹿じゃないだろうからここで俺を撃つことはないだろう。なにせこのフィールドで一番厄介な敵が現れたんだからな。それに味方・・は多い方がいいだろ?

そうと決まればあぶり出しだ。つっても俺が動き回るだけだけど。


(待ってろよ強敵!俺が今討ち取りに行ってやるからな!)


出入り口は下の方。急いで下山だ!



「エーススナイパー………?」


この状況で何でいきなり……。


待て、あの部長氏の事だ。これは単なるイベントじゃないな……。だとすると何だ…?まさか俺たちを試そうってのか?こんな時に……?いやこんな時だからこそか。お互い武器も違って意思疎通も出来ない状況でどれだけ仲間・・を信じて動けるかを見るのか。


「なるほどね……」


一言つぶやき残弾を確認。よし、まだ余裕はある。

部長氏たちの思惑が分かったのならやることは一つだ。


「ぶっ潰す」


これだけだ。


「どうやら三人ともこのゲームの本当の目的に気づいたみたいですね」


大西君が前方の佐村君を放置して下山を開始したということは、完全に義明君を倒しに行ったとみて間違いないでしょう。佐村君も先ほどの発言からして目的は同じのはず。


「そうだね。フリーフォーオールに見せかけたフォックスハンティング、今回はキツネ役が三人いて制限がある分、一般受験者にはいろいろと報酬を用意したしね。さぁ、ここから面白くなるよ」


「でも、ちょっときつすぎやしませんか?」


「そうでもないよ。彼らがこれから経験することになる試合に比べれば」


「確かにそうですが……」


部長……まだあの試合の事を……?


「友美、俺は大丈夫だから、今は観察に集中しよう」


「……はい」


全国高校生サバイバルゲームトーナメント大会決勝戦、最も過酷とされるこの試合は連続三日間にわたって行われる耐久ゲームであり、フォックスハンティングでもある。フィールドは国が整備した無人島だったり自衛隊の広大な演習場だったりと毎年変わり、発表されるのも本戦十日前とギリギリなため、対策が取りづらいため毎年つまらないミスをする学校が出る。そう、去年の決勝戦、私たちは負けたのだ。当時一年生の永原君の致命的判断ミスの影響で……。まだ根に持っていたとすると、良い事ではありません……。


「大岩が義明とスナイプ戦を開始した。距離も五十メートル、最適だな」


隣で一緒に観察中の森口君が永原君に報告した。


「そのようだね。他の二人は?」


「特に接敵もなく順調に近づいてる。にしても大西の奴、スナイパー相手に突撃って何考えてんだ?」


「うーん、彼のメインアームがあれだしねー。仕方ないね」


「ネタで入れてみたのを引くとは、彼はくじ運がありませんね」


「試合相手を決めるくじは彼には引かせないようにしよう」


「「同感です」」


永原君の意見に、私たちが答えるのは同時だった。



距離は五十メートル、お互いにスコープを覗きこんだままにらみ合う。

二人ともボルトアクションのため一発ごとに装填が必要であり、その装填が一番の隙となる。しかし実銃とは違うため、撃たれてから避けることも出来る。

この周りには何人か受験者がいたはずだが、姿はおろか声すら聞こえないということは目の前のエースが排除したのだろう。ひでぇことしやがる…。


(いつまでもにらみ合っててもらちが明かねーな。どうするか…)


「ヒャッハー!大西洋!自ら地獄に飛び込んでやったぜー!」


大西!このタイミングで来るか!?

待てよ、これはチャンスだ。本当のエースならこんな状況になったら絶対に動かない。いや、動けない。大西に狙いを変えようものなら正面にいる俺に撃たれる。しかし俺を狙ったまま動かないでいればいずれ大西に見つかりキルされるだろう。


「クセェクセェ!スナイパーの匂いがプンプンするぜぇ!」


一見余計なことを言ってるように聞こえるが(実際余計なことだが)、この状況なら余計なことではない。相手に自分の位置を教えてしまう代わりに、だんだん近づくことで焦らせる効果が期待できる。


(大西、お前に掛ける!)


俺は大西の行動に期待し、引き金を引いた。



ポスッ、と、一発、スナイパーライフル独特の射撃音が左から聞こえた後、パチッ、と、右から木の幹に当たる音を俺は聞き逃さなかった。さらに、ガサッ、と、左から木の葉がこすれる音も俺には聞こえた。


(ナイスだ!孝史!)


今撃って動いたのは孝史に違いない。そして今の一発は、俺にエースさんの位置を教えるため!

音がした木の根元の草の合間、ペイントされて見にくくなっているが確かに見える。サプレッサーが取り付けられた、スナイパーライフルの銃口!


「そこだぁー!」


交戦距離二十メートル。射程距離ギリギリとはいえバッチリこっちの距離だ!


「当たれ!」


満を持して放たれた弾丸はまっすぐエースに向かい………



      逸れた。



「くっ!風かよ!」


サバゲーの弱点、強い風。こんなところで吹かなくてもいいじゃねぇか!

近くの木に身を隠しコッキングして装填。さぁて、貴重な一回を外しちまったぞ。ここからどうやってタイミングを計ろうか…。


「ミナミちゃん、やっぱりやめようよ……!」


「ここまで来て何言ってるのアーちゃん!もう敵は目の前なんだよ!?」


「でもぉ……」


小声より少し大きい会話が聞こえてきた。場所は………エースさんの真後ろ三十メートルかな?俺ら以外の受験生だから俺らを狙っているのか?


「やろうよ!私達三人ならエーススナイパーだって倒せるよ!」


なんとまぁ、エースさんを。勇猛果敢なこって。


「ここにはもうあの三人の内、二人はいる。可能性はゼロじゃない」


「チーちゃんもこういってるんだよ!?できるよ!」


「なんで二人いるってわかるの?」


「一人は叫んでた。もう一人は勘」


「えぇぇー……」


じれったいなぁ。撃っちゃうか?


「ほら!二人とも立って!」


「わ、わかったよぉ…。ちょっと待って…」


そういって二人目が立とうとした時、


「伏せて!」


「え?きゃあ!?」


突然最後までしゃがんでた一人が袖を引っ張り無理やり態勢を崩させる。

その直後、聞き覚えがある駆動音がして、隣をBB弾が一発通過していった。全く、親友よ、遅いご登場だ……。

続いてフルオートでの射撃音が聞こえてきて、


「いたいたた!?」


「ッ!」


こちらに突ろうとしていた一人と転ばせた奴をキル。


「え!?二人とも!?」


「うわーーーー!やられたーーーーー!」


「…………ヒット………」


「え!?え!?」


オロオロする一人の背後から、


「フリーズ」


這い寄る影が一つ。




最初の一発をいつもの癖でセミオートにしていたため外してしまったが、次の一斉射で二人を倒せたから問題はない。


「フリーズ」


最後の一人にフリーズコール。

本来であればフリーズコールとナイフアタックなどの近接戦闘はプレイヤー同士のイザコザに発展しかねないので禁止行為だが、今回に至ってはフリーズコールのみ許可されている。


「ひぃ!お願いします撃たないでください何でもしますからぁ!」


そんなに怯えなくても……。


「落ち着いて。えっとフリーズコールだから、ヒット判定ね?」


「え?あ、はい!ヒット!」


うわ、全力疾走で退場して行ったよ。そんなに怖かったのかな?

さて、気を取り直して……、銃声とツッコミどころ満載の叫びが聞こえてきたのはここら辺。恐らく大岩も大西も到着してる頃だろう。


(どこにいるんだ?二人とも。ついでにエースさんも)


エースさんの位置が分からない以上、うかつに動けないが、フリーズコールしてる間に撃ってこなかったってことは、ここは丁度死角になっているのか?


(誰でもいいから居場所をエースさんの教えてくれ)


生い茂る草から慎重に頭を半分出して様子をうかがうと、………左側の木の陰に誰かいるのはあえて見なかったことにした。迷彩服に拳銃、大西だ。あいつの事だから俺か大岩にエースさんの位置を教えて討ち取らせる算段だろう。

ふと目線を正面に戻すと、土嚢の脇から顔が一瞬見えた。そしてゆっくりと黒いVSR-10が出てくる。

この時点で黒じゃなかったら間違いなく隠れてた。エーススナイパーがキツネ狩りにカモフラージュをしてない銃は持ち込まないだろうからね。


(大西が左の木の陰、大岩が正面の土嚢………。そして目線の先には……………)


いた、風で揺れる草木に紛れてゆっくり移動してるギリースーツ。間違いなくエーススナイパーだ。


(なるほど、本物のエースか……)


〝自称〟エースでも〝通称〟エースでもない本物のエースがそこにいた。

風が吹いて草が揺れると揺れに合わせて移動し、風が止むと時が止まったかのように動かなくなる。本物のハンターがそこにいた。


(でも居場所がばれたスナイパーほど、無防備な存在はいないんだよね)


残念でした、エースさん。この勝負もらったよ。

第四匍匐ほふくで慎重に距離を詰め、必中の距離まで近づきドットを目標に合わせる。


(勝ったぞ…!)


ノ〇スみたいなことを頭の中で呟いて引き金を引き、毎秒十五発のサイクルでBB弾が銃口から吐き出される。

狂いなく発射され

たBB弾は狙い通りエースさんに当たり……、


      「ヒット」



三・方向・・から(・・)同時・・に(・)撃たれた(・・・・)エースさんはヒットコールをした後、ゆっくり立ち上がりその姿を晒さらした。

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