第十三話
あのサバゲー講習会から一週間と一日、事前に回ってきた連絡通り俺らサバゲー部は「サバイバルゲームフィールドACP」に来ている。
休日ということもあり、一般参加者含め三百人くらいの大人数である。
初参加の二人は最初こそ、その人数の多さに圧倒されていたが、午前のフラッグ戦をメインとしたゲームで慣れたようで、先輩や俺たちのサポートのおかげかキルを稼いでいる。
楽しい時間ほど過ぎるのは早く感じるといったのは誰だったか。大西が弾を切らして「アパーム!!」と叫んだり、立風先輩がギリースーツとM24の合わせ技で1ゲーム10キル0デスしたり、大西が開始早々ズッコケたり、長良さんが無線の操作をミスって相手チームに情報流したり、相手チームに先行した大西がフレンドリーファイアされたりなどいろいろなことがあったが遂に最終ゲーム、メディック戦だ。
「ルールは問題ない?」
「はい。問題ないです」
ゲーム開始五分前になりセーフティーエリアから自陣フラッグにて開始の合図を待つまでの間に部長が長良さんにゲームルールをチェックする。
「後方で待機して呼ばれたらタッチすればいいんですよね?」
「まぁそうだね。各チームメディック役は二人いるから、最前線はその人に任せればいいよ」
もう一人のメディックの方は長良さんが初心者と知ると、「前衛は任せて!」と言って去って行った。顔もそうだったがマジイケメン。
今回は今日最終ゲームということもあり『メディック戦』ではあるが、メディックが二人ともキルされた場合当然復活はできず、その時点でゲームルールは『殲滅戦』となる。二人しかいないメディックをうまく守り抜くことが勝利への鍵となるのだ。
「間もなくゲームが始まりまーす」
スタッフの声を聞いた途端、駄弁りながらも各々自分の銃にマガジンをはめ、槓桿こうかんを引き(気分)、セーフティーをフルオートに合わせ、サイトのスイッチをONにする。
「5、4、3、2、1、スタートー!」
「イクゾー!!」
「「「うお―――――――――――!!!!」」」
「我に続けー!同志―!」
「「「Ypa――――――――――!!!」」」
誰かの号令に合わせそれぞれ雄叫びをあげて突撃する中、我々サバゲー部はペアで動くというオーダーがあるため、特命(仮)を帯びている大西以外は事前に言われている通り、二人一組で行動することになる。
「じゃあ、ラスト行こうか。長良さんと友美はここにいてね」
「はい」
「承知しました」
長良さんは自分メディックの役割に緊張しているせいか少し上ずった声なのに対し、副部長は落ち着いた声音だ。
「ヨシは相手チームのメディックの足止めを頼む。絶対にキルしないでね」
「いつも通りか。分かった」
「センパイなら相手のメディックくらいすぐに片付けられると思うんですけど…」
松島さんが控えめに質問する。普段元気いっぱいなのになぜこんなに大人しいかというと、立風先輩が少し怖いらしい。本人が聞いたらどんな反応するだろうか。
「確かにそうだが今回のサバゲーはお前たちを慣れさせることが目的だからな。こちらとしては早く終わらせたら意味がないんだよ」
そんなことも分からんのか?というような目線を向ける立風先輩。怖いっす。
「うっ、そ、そうですね。ごめんなさい…」
「…………」
何を思っているのかわからないが無言で松島さんを見つめる立風先輩。やめて!松島さんの体力はもう0よ!
「うぅ~」
あぁ、大岩の後ろに隠れちゃった。言わんこっちゃない。
「そろそろ行動開始ししよっか。二人一組で動けばそれでいいから。どちらかがキルされたら片方は離れないように。近くにいること。いいね?」
「「「「了解」」」」
「状況開始!」
部長の号令を聞いた部員達は、射撃音とメディックコールがこだまする前線へと駈け出した。
‡ ‡ ‡
「右に味方1」
「了解」
部長の号令の後、俺と伊縄さんはやぶに、大岩と松島さんペアは正面バリケードに向かった。バリケードがある正面ルートとは違い、やぶの中はバリケードがなく、その代り迷彩服の効果が最も期待できるところでもある。
俺の報告に短くかつ小さく応じる伊縄さん。なんか頼もしいな。
フィールドと立ち入り禁止区域の仕切りに沿ってしばらく進むと、やぶから出て積んである土嚢の左端にあった根元から四方向に枝分かれした木に身を隠した。伊縄さんはすぐ後ろで同じようにしゃがんでいる。迷彩服を着ているなら白い土嚢から身を出すより、木から身を出した方が見分けがつけにくいからだ。
索敵するため頭を出そうとしたその時、ふいに頭の右側をBB弾が通過していった。
「あぶね!どこから!?」
「一時の方向!57番のバリケード!」
相手を素早く発見した伊縄さんがフルオートで反撃しているうちに、覗きこんでいた頭を引っ込めて銃を構えて狙いをつけて五発の単連射。伊縄さんの位置からは隠れられても俺の位置からは少し見えてるんだぜ?
「ヒット!メディーック!」
バリケ裏の人が手を挙げてメディックを呼んだ。
「1キル!」
「グッドキル」
危なかった。援護がなければ即死だった。メディックいるけど。
「ナイス援護。助かった」
「別に、これくらい…」
続きを言わないうちに後ろを振り向く伊縄さん。
つられて振り向けば中央ルートに行ったはずの大岩、松島ペアが来ていた。
「あれ?二人は中央じゃなかった?」
俺の疑問に対し大岩が、
「中央は大人気過ぎてバリケードが空いてなかったんだよ。だからパッと見すいてそうなここに来た」
「なるほどね」
「頭隠して尻隠さずってああいうことを言うんだって思った」
松島さんの付け足しでどんな状況か把握できた。
「で、こっちはどんな感じ?」
「さっき一人やったけどまだ三人はいると思う」
俺が大岩達と話している間に索敵と警戒をしてくれている伊縄さんが報告してくる。
「ありがとう。だそうだ」
ホント伊縄さん頼りになる。午前のゲームでも俺の死角にいた敵をバタバタ片付けてくれてたし。一年初心者の中では圧倒的にトップの成績であろう。
「しばらくはここでつぶしていくしかなさそうか」
「そうだな」
今俺たちがいる土嚢は少し地面を掘り下げたところにあり、立ち上がれば腰くらいの高さまで積まれていて、他のところにある土嚢と比べて高い。理由は地形にあり、史実で例えるなら二〇三高地だろう。あそこまでひどくはないけど。丘の下であり、エアガンの特性上BB弾が失速して落ちてきた弾に当たるのを防ぐ目的で少し高く積まれているのだ。
「あ~腕がだるい~。休みたい~」
練習の成果が出ているのか抱え銃のまましゃがんで待機してる松島さんが愚痴り始めた。
「土嚢から頭を出さなければ休んでていいよ」
ゲーム中、しかも敵が目の前にいるにもかかわらず休んで良いとはこれいかに。でもまぁ、初めてにしてはがんばってる方だもんなー。
「ホント!やったー!」
土嚢に背中を預けて銃から手を離さずに休む松島さんを見て伊縄さんが、
「寝ないでね」
という呟きを聞いて、
「流石にそこまではしないよ!」
と叫んだ瞬間、失速して威力が死んだ弾がパラパラと降って来て、土嚢に当たって跳ね返り地面を転がって行った。
「隠れてないで出てこいってか」
「それもあるだろうけど、こっちの精確な人数を探ろうとしてるんだと思う」
「やっぱりそう思う?」
「そう考えるのが妥当」
「よし、陣、攻めよう」
俺と長良さんの会話を聞いていた大岩が突然言い始めた。
「マジで?確かに進まなきゃ状況は変わらないけど、ここで突るのは自殺じゃね?」
「心配しなくても俺と松島さんで援護するからさ」
「そうだよ!私たちが援護するよ!」
横から松島さんも便乗してきた。どうするか……。
「行こう。遅かれ早かれ進まないといけないし。それに二人の援護があれば丸太のバリケまではいける」
「……オーケー、進もう」
土嚢の端から頭を出して安全を確認した大岩からゴーサインを貰い、飛び出した俺らを援護するため松島さんがワンマガジン分の弾を相手が隠れているバリケードめがけばら撒く。途中から大岩も加わったため、俺らは大岩達がいる土嚢と相手たちがいるバリケードの丁度中間あたりにある丸太と木の枝を積み重ねたバリケードにたどり着くことが出来た。
相変わらず敵は隠れているが、相打ち覚悟でバリケードから出て撃てば一人は減らせるだろう。
「とりついた!敵は三!今度は俺たちが援護するから上がってこい!」
《了解!!》
インカムに怒鳴りつけると元気のいい松島さんの声が返ってきた。ちょっとやな予感。
《わ!待て!まだタイミングをっ…!》
次に聞こえてきた大岩の声が聞こえた途端、敵を牽制しようと伊縄さんが身を乗り出すも、敵バリケードから射撃音が聞こえ、
「痛たたた!ヒット!」
すぐ後ろから松島さんのヒットコールが聞こえてきた。それも隠れるところがないところから。
「助けてー!アーちゃん!」
もはやメディックではなく個人を呼ぶ松島さんを見て、俺らはこのゲームは楽に進まない事を察した。
‡ ‡ ‡
特命部員こと大西洋は現在頭の中にある地図が正しければ陣達がいる所の反対側の林の中で進んでは隠れるを繰り返しているところだ。
ゲーム前に「君には別行動をしてもらう」って部長氏から言われた時は、「いったい何が始まるんです?」って聞いたのに「秘密」と返されてちょっと悲しかった。分かってて反応しなかったなあの部長。おのれボケ潰し…、ぐぬぬ……。
まぁそんなことはどうでもいい。俺の今の武器はサプレッサーを付けたMP7と同じくサプレッサーを付けた電動USPだ。
どちらももとから音が小さい銃だがサプレッサーを付けることによりさらに隠密性が上がっているため、ここに来るまでに四人おいしくいただきました。戦果うまうま。
っと、考え事してたら左から新しい射撃音。これは…。
《大西くーん、聞こえてるー?》
部長からだ。
《感あり》
周辺に聞こえないように小さく短く返す。
《そっちの様子はどんな感じかな?》
察している部長はそのまま続ける。
《四人キルです》
《上出来。急で悪いけど、君の近くに軽機関銃持ちがいない?》
「います。他にも二人くらいですかね」
《正解。軽機関銃手の隣にアタッカーが二人。ここまでヨシが教えてくれたんだけど、その途端ヒットされたみたいでね》
「俺が代わりにやれってことですね?」
《物分かりが良くて助かるよ。きついだろうけどよろしく》
「任せてください。手はあります」
《頼もしいな。それでこそ君だよ。終わり》
通信終了の合図を受け取りもう一度耳を澄ませると相変わらずこちらには気づかずに弾幕を張っているようだ。
(こいつ(・・・)を使うには少し距離があるな……)
ポーチの中にある奥の手を一撫でしてゆっくり敵に這い寄る。
(まだだ、相手の声が聞こえるまで…)
手を着ける場所、足を着ける場所を感覚で察しながら音を立てないように近づく。
「………リロードする!」
(今!)
素早くポーチに手を入れ、奥の手を出す。そいつについているピン(・・)を(・)抜き(・・)、聴覚を頼りに大まかな位置を突き止め投げる。
投げられた物は地面に落ちた瞬間、回転しながら詰めてあったBB弾を全て吐き出した。
「な!?ヒット!」
「メディーック!」
「嘘だろ手榴弾(・・・)かよ!?」
俺の奥の手、『ハリケーングレネード』。
一般的なガスグレネードは、グレネードの底にBB弾を詰めるため作動しても一方方向にしか攻撃は行かないが、この『ハリケーングレネード』値段は倍以上なものの、ピンを抜いて衝撃を感知すると回転しながら二百発のBB弾をガス圧で押し出す仕組みになっている。全方位に攻撃できる理想的はグレネードなのだ。
「やりました」
《最高の働きだよ。じゃあその場で待機してて》
「了解」
手榴弾を投げた時点で居場所は特定されているだろうけど、ここで引いたら三人を片付けた意味がなくなるから警戒しつつ待期する。ハリケーングレネード?大丈夫、学校の名前が直に彫られているから盗まれることはない。………はず。
そんなこんなで七キルしたわけであるが、正直に言おう、この時俺は調子に乗っていた。
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