第二話
学校に到着し腕時計を見るとジャスト八時十五分。計画通り。
「後でなー」
「おーう」
俺がC組で大岩がB組なので正門ロッカーで別れる。
(どんな連中がいるのやら…)
新入生によくある期待と不安の中間の感情を抱いだきつつ教室のドアをくぐると…
(時間が時間だけに結構来てるな、にしても…)
しーーーーーーーーーーん
静か過ぎる。もっとだべってると思ったのに。まあいい、自分の席に向かおう。
(十二番の席は…お、ラッキー、一番後ろだ!)
荷物を机の横のフックに引っ掛けて椅子に腰を下ろす。ん?メールが来たぞ?誰から来たかは大体予想はできるが。
【大岩孝史】
予想通り。
〔そっちのクラスの様子は?〕
〔お通夜状態〕
〔やっぱり〕
〔そっちもか?〕
〔フム〕
〔暇だな〕
〔だな〕
などと意味もないやり取りをしていると
隣の席に誰かが座った音がした。一瞬女子かと期待したが、どうやら男子生徒だったようだ。ボッチ回避の為にも挨拶しておこう。
「おはようございます」
「む、おはよう」
容姿は標準的な体格をしていて髪は短めでサッカーなどスポーツが得意そうな好青年のように見える。
「はじめまして。大西洋おおにしひろしだ。よろしく」
「佐村陣。よろしく」
人当たりの良い笑顔をしながら簡単に自己紹介をした。
「フムフム、佐村君ね。早速だが呼び捨てで良いか?俺も大西で構わん」
「別にいいけど…分かった」
「早速だが佐村よ。今の日本政府の方針についてどう思う?」
いきなりなんだこいつは…
「え…、確かに増税は嫌だけど……」
「そうじゃない、青少年体力増進条例についてだ」
「そっちか。まぁ、いいと思うよ」
「いいってことはお前さん、サバゲープレイヤーだったり?」
「あぁ、一応…」
「よしきた!」
「…………!?」
突然席を立ち大西が声を張り上げた。
「サバゲー部入ろうぜ!」
「いいけど…元からそのつもりでいたし…、とりあえず座れ。あと静かに」
「あ、すまない。よかったよかった!改めてよろしく!」なぜ握手まで求める?
「お、おう…」
仕方なく差し出された手を握り返し困っていると
「ほぉーい、おはよー」
担任の登場である。
「む、担任か。またあとで」
一応常識はあるらしい。
「このクラスの担任を勤めることになった尾お武たけ信安のぶやすです。担当教科は英語。今年一年よろしくー」
強面ではあるがなんか気が抜けている感じの人という印象を受けた。面白そうな人だな〜。
「ちなみにサバゲー部の顧問です。興味がある人は来てくださーい」
ざわざわ
「サバゲーって何?」
「サバイバルゲームだろ?」
「なにそれ?」
「最近国が進めてるやつでしょ?よく知らないけど」
クラスの男女の声で教室が少しざわついた。
「サバゲーを知らない奴がいるとは…」
と、大西が残念そうにつぶやく。
「まぁ、マニアックって言っちゃマニアックだからね」
という大西と俺の短いやり取りの後、
「はい、ちょっと静かにー。サバゲーの説明は後にして、入学式兼始業式について説明すんぞー。今日は式とプリント配布して終わりだからがんばれー」
先生の説明は続く。
「四十分に放送が入るから五分前になったら教室先頭から一番から二十番まで、その右隣に二十一番から最後まで並んで。それまで駄弁ってよし。あんまり時間ないけど」
現在時刻八時三十一分、後四分か。
「にしてもあの先生が顧問かー」
「そのようだね」
「大丈夫かね?」
「何が?」
「しっかり活動出来てんのかなってこと」
「大丈夫じゃないの?」
「うーん。不安だ」
「えー」
「俺はもっとこう、某軍曹みたいなのを想像していたんだがな…」
「俺たちにはまだ早い…」
「高性能ハゲとかは?」
「実戦的な訓練が出来そうだが元ネイビーシールズとかガチ過ぎだろ!」
「お前意外とネタが通じるな!それはそうと何故サバゲーに興味を?」
大西が急に話題を変えてきた。忙しい奴だ。
「強いて言うなら動不足解消かな」
無難に答えてみたが、大西は納得できないらしく
「他には…?」
と聞き返してきた。
「え、他に?そうだなー、どこだかの動画投稿サイトで実況動画を見てやってみたいと思ったのがきかっけかな」
「そういう答えがほしかった!」
嬉しそうだ。続けて大西が言う。
「俺は親の影響でな」
「親もサバゲーを?」
親子でサバゲーなんてこんなご時世でも珍しいな。俺の親は興味はあっても忙しいから出来ないだろうなー。違うな、腹回りの肉が邪魔で動けないのか。
しかし大西の口から出か言葉は俺の予想を超えていた。
「いや、俺の両親は自衛官だ」
「え!?」
「小さいころから総火そうか演えんだとかに行っていたからな。こうもなるさ」
「いろいろとすげぇな。総火演なんて一度も行ったことねぇよ…」
総火演とは、富士ふじ総合そうごう火力かりょく演習えんしゅうの略で年に一度陸上自衛隊が開催する一般公開される実弾を用いた演習だ。
全平均倍率は約二十八倍という高校受験の倍率が楽に思えてくるほどの倍率を切り抜けなければ見ることのできないイベントなのだ。
「今年見に行くか?」
「いいのか!ぜひ頼む!てか、この時期にもう見学できることが決まってんのか…?」
「親の招待状を使えば行けるだろ」
「なるほど」
こんな形で見学が決まってしまうとは。挨拶しておいて正解だったぜ。何が何でも予定を入れないようにせねば。
「そろそろ時間だな」
「へ?」
キーンコーンカーンコーン
大西が時計をチラ見して時を告げた。
「よーし、ならべー」
先生が号令をかけた。
「行くぞ」
「だな」
俺たちは席を立ち教室を出た。
‡ ‡ ‡
長くてだるい校長先生と生活指導の先生の話を適当に聞き流す事約二時間、ようやく教室に戻ると大西はすでに教室にいた。
「早く帰りてー。腹減ったー」
戻ってきて最初の言葉がそれかよ…まぁいいけど。
「後プリント配るだけだから我慢しろー」
大西の言葉に反応しつつ先生も入室。
「みんな早く帰りたいでしょ?俺も早く終わらせてタバコ吸いたいから協力してねー」
「先生タバコ吸ってんすか?一本くださいよー」
不良のような外見の奴が言った。アホめ。
「最近タバコの値段高くなってるからダメー」
クスクス
クラスに少し笑いが起きた。ていうか未成年云々ではなく値段の問題ですか…。
「笑い事じゃねーよー。前は三百円くらいだったのになぁー。プリント周ったかー?周ったなー」
先生。一番端周りきってません。あーあ、慌てて配ったから落としたよ。かわいそうに。
そんなことお構いなしに先生は話す。
「明日は一、二時間目に部活選択。三、四時間目に教科書販売があるからお金忘れないように。明日忘れたら本屋まで買いに行く破目になるからねー」
四月一日から一週間の予定は入学前に配られた書類で大まかに把握しているから問題は無かろう。
「詳しいことはプリントに書いてあるからそっち見てねー。以上解散!帰っていいよー」
解散の号令がかかった途端教室が騒がしくなった。はじめはあんなに静かだったのに。タバコの件のおかげか?
プリントをしまい終わると
「さぁ、俺らも帰ろう」
図ったかのごとく大西が言ってきた。
「いや俺は友人を待つよ」
大西には悪いが俺は大岩を待たなければならない。
「女か」
「ちげーよ!」
「だろうな。じゃまた明日」
だろうなっておい。
「あぁ、明日」
大西と別れて大岩の教室に向かう。まだ終わっていないようで若い教師がプリントを片手に持ちながら話していた。持っている紙からして部活のことだろう。
「いいかー、まだ本格的な授業は始まらないけどくれぐれも遅刻しないようになー。よしじゃあ解散!」
がやがやと生徒たちが出てきた。大岩を見つけ声を掛ける。
「おーい」
声をかけるとすぐにこちらを振り向いた。
「またせたな」
「そうでもない。早く帰ろうぜ」
「そうすっか」
時刻は午後十二時四十分。順調に帰れれば少し遅めの昼食となるだろう。
「部活どうする?」
下駄箱で靴を履きかえながら大岩に尋ねてみる。
「見てないからまだ何とも。そっちは?」
「サバゲー部一択」
ドヤ顔で言ってみた。
「やっぱりか。そうだろうと思った。」
「偶然にも俺のクラスの担任がサバゲー部の顧問でさ、厳しそうな体育教師を想像していたんだけど、なんか気の抜けた英語教師だった。あと、隣の席の奴が俺らと同じ趣味の奴だったぜ」
「ほー。そいつもサバゲー部に入るのか?」
「意気揚々と語ってきたよ…」
「変人か」
「一言で言えばな」
苦笑いを浮かべながら短く答える。
チャリの鍵を解いてまたがり正門に向かう。正門は新入生だけでなく先輩たちもいるのでごった返している。熱い…。
「ねぇ、あの人見て」
近くの女子生徒が左側にいる女子生徒の肩をつつきながら右側を小さく指さした。
そこには身長百八十はあるであろう大柄な男子生徒がいた。
ガタイも良く、制服の上からでも分かるくらい筋骨隆々としており、男であったら一度は憧れる筋肉質な肉体をしていた。
「なんかすげー人がいる」
大岩が呟いた。
「だな」
同意する俺。
「この学校ボディービル部なんてあったっけ?」
俺の素朴な疑問に大岩は、
「少なくとも俺が見た資料には載ってなかったな」
「だよな」
どう鍛えたらあんなになるんだ?毎日外部のトレーニングジムにでも通っているのか?
こんな感じに今日あった出来事をお互いに話しながら帰路についた。
しばらく自転車を走らせていると、大岩が話しかけてきた。
「市村さんとは最近どうよ?」
「なんだよ?いきなり」
「その後の進展は?」
「?、特に何も…。何で?」
「あぁ、そう」
ため息交じりに軽い返事をよこしてきた。一体なんなんだ?
「澄香と言えば今日変な夢見たなー」
「どんな夢だ?」
停車してまで食いついてきた。それも少し興味ありげに。
「いやぁ、なんか、人質事件が発生してその鎮圧のために俺と同僚的な奴が窓から建物に侵入したんだけどさ…」
「うんうん。それで?」
「近くのウエディングドレス姿の人質に声をかけてみたらさ…」
「ほうほう」
にやけてる。なんで?
「それが澄香だったんだよ。そんで驚いてたらさ――――」
「あたしがどうしたの?」
「え?」
突然後ろから声を掛けられ振り向くと、
「なんかあたしの名前が聞こえたような気がするんだけど…?」
幼馴染の市村澄香いちむらすみかがいた。
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