第三話
「何の話してたの?」
普段はこんな話してもほとんど聞き流すのに、なぜか今日は大岩同様食いついてくる。…もしかしてドレスうんぬんが関係してるのか…?めんどくさくなりそうだ…。
というのも澄香の母親はウエディングドレスのデザイナーをしていて、よく手伝わさるていると澄香から聞いていた。そのためドレス(というより服)には関心が強い。俺もよくダメ出しされている。
「た、ただ今朝見た夢の話だよ。なぁ?」
大岩に支援を要請する。頼むぜ戦友!
「あー俺午後用事があったんだー。じゃ、明日」
棒読みのセリフを言った後、笑顔で手を振りながら戦線を離脱しやがった!薄情者め!
しかし大岩は去り際に俺にメールをよこしていた。二メートルも離れていないのに。とりあえず確認する。
〔がんばれよー〕
何をがんばれば良いんだ?
「ねぇ、ちょっと!」
澄香に呼ばれた。いかんいかん。忘れるところだった。
「ん?」
「いや、だから、何の話をしてたの?」
「さっき言ったように今朝見たの夢の話。それ以上でもそれ以下でもないから!」
少し強めの口調で言ってみる。
「そう…、ならいいんだけど…」
ビクッとしつつ納得してくれた。半ば強引ではあったが。
「とりあえず、帰るか」
「うん」
道端での雑談にも区切りがついたので帰宅を再開する。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
会話がない。気まずい空気が流れる。ちなみに澄香が徒歩なので俺も自転車から降りて歩いている。
しばらく歩き家が見えてきたところで、澄香が沈黙を破って話しかけてきた。
「陣、お昼まだ?」
「え?あぁ、まだだけど?」
時刻は午後一時二十分になろうとしていた。途中で立ち話をしたので少し予定より遅れている。あー、意識したら余計腹減ってきた。
「じゃあさ、久しぶりに…どこか食べに行かない?」
「へ?」
突然のランチのお誘い。まさか…
「べ、別に深い意味はないよ?こうやって話すのが久しぶりだったから…、ダメかな…?」
俺の思ってることに気づいたのか、慌てて俺の考えを否定した後、少し頬を赤く染めながらこちらをチラッと見てくる。惚れてまうやろー!
「い、いや、いいけど…」
くそう、これは反則過ぎる。こんなの断れるわけがねぇだろ!うっかり古いネタまで出てきたし!
「えっと…、準備できたら連絡するから、待ってて!」
「お、おい!」
俺の返事を聞いた途端、心底嬉しそうな笑顔をしながら去って行った。何度俺を惚れさせる気だ。
率直に言えば俺は澄香が好きだ。LikeライクではなくLoveラヴの意味で。先ほどの反応を見るに十中八九じゅっちゅうはっく澄香もそうなのであろう。
だが俺は告白はしない。ヘタレだと思うだろ?その通りだ。俺は怖いのだ。
なんだかの拍子に関係が壊れてしまうんじゃないかと考えてしまい、ずっと告白できずにいる。その結果、現状維持という形に逃げているんだ。
(いっその事、何かはっきりとしたきっかけがあれば、楽なのにな…。畜生、自分が嫌になる)
そんな軽く自己じこ嫌悪けんおに陥りつつ、俺は帰宅した。
‡ ‡ ‡
(お昼誘っちゃった…、陣驚いてたな…)
陣が了承した後、私は急いで帰宅した。それだけ誘いに乗ってくれた事がうれしかった。
「ただいまー!」
勢いよく玄関のドアを開けた。
「おお、びっくりした!おかえり」
居間いまにお母さんがいた。ほんとにびっくりした顔をしている。ごめんね。
「お昼何がいい?」
お母さんが聞いてきた。
「今日は外に食べに行くから…」
「そう。学校の友達?」
「まぁ、そんなとこ」
正直に言えずはにかんでごまかす。
「お父さんは?」
「まだ仕事」
「ふーん」
「すぐ行くの?」
「着替えたらね」
「そっか、行ってらっしゃい」
「うん」
二階にある自分の部屋に入り制服を脱ぎ、ハンガーに掛け私服に着替える。この間、わずか十秒である。
少しメイクをして必要なものをカバンに詰めて準備が完了したところで陣に連絡する。メールにしようかと思ったけどここはあえて電話で。
トゥルルルルル、トゥルルr…
『できたか?』
「うん。今から向かうね」
『りょーかい』
すぐ行くからと最後に言って電話を切る。
玄関に向かい靴くつを履はく。ついでに姿見すがたみで最終確認をする。うん、大丈夫。
「行ってきまーす」
「行ってらっしゃーい」
焦る気持ちを抑えながら私は陣の家に向かった。
‡ ‡ ‡
私が着くころには陣は家の外にいた。
「ごめん、待たせちゃったかな?」
家の中で待ってると思ったのに、どうしたんだろ?
「全然待ってない。行こうか」
「うん」
陣と横に並んで出発した。
電車を乗り継ぎ繁華街に出る。東京で言うなら新宿や渋谷みたいなところだ。そこまで賑わってないけど。
「どこの店にするんだ?」
「まだ言ってなかったっけ?えっと…、こっち」
陣の前に出て誘導する。手を握ろうかと思ったけどそんな勇気は私にはなかった。
「ここだよ」
お店の前に到着。
「この間雑誌で見つけて気になってたんだ。月ごとにお店のコンセプトが変わって、今月はイタリア風なんだって。えっと…、入ろっか」
ここまで来て緊張してきた。
「お、おう」
陣も緊張してるみたい。
お店の中は新学期で帰りが早いせいか学生が多かった。それも三分の二はカップル…。
「いらっしゃいませ。二名様でよろしいでしょうか?」
「は、はい」
うぅ、声が上ずる…。
「では席までご案内いたします」
店員さんにドラ○エみたいについて行って席についた。
「こちらメニューでございます。ご注文お決まりでしたらこちらのボタンを押してください。」
ごゆっくりお楽しみくださいと言い残し店員さんは去って行った。
「何にする?」
とりあえず陣に聞いてみる。
「おすすめとかある?」
「えっと、この【若鶏もも肉のドリア】っていうのがおすすめらしいよ」
「ほう、じゃあ俺はそれにしよう」
「うーん、じゃあ私はツナパスタにする。他は何にする?」
「……ナポリピザかな。二人で食べよう」
「っ、うん…。そうしよっか…」
突然〝二人で〟なんて言うからせっかく溶けてきた緊張が復活してしまった。
私が緊張してる間に陣がボタンを押して店員さんを呼んでドリンクバーまで注文してくれた。ありがたい。
(ふぅ、さて、何を話そうかな)
深呼吸で心を落ち着かせた後、料理が運ばれてくるまでの間何を話すか私は話題を探した。
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