第七話
説明会から数日後の日曜日、事前に担任であり一応顧問でもある尾武先生から渡されたゲームの日程と集合場所が印刷されたプリントを頼りに、今回のフィールドでもある山に三人で到着した。
山と言ってもそんなに大きくはなく、せいぜい東京の高尾山くらいだ。行ったことないけど。
「「「おはようございます」」」
受付にいる部長さんに挨拶。基本だよね。
「おはよう。ずいぶん早いね」
ごもっとも。集合時間は午前八時なのに、今はまだ七時である。
「遅刻防止の為なんですけどね~。ちょっとはやすぎました」
大西がテヘペロ☆みたいに返答。
「まぁ別に問題ないけどね。あっちで着替えて待機してて」
部長が指さした方向には、トタン屋根の下に金属製のベンチと机とガンラックを設もうけたいわゆるセーフティーゾーンがあった。ようは休んだりするところである。正面には『更衣室』と書かれた小屋もある。こっちは仮設住宅のような見た目だ。
「結構しっかりした作りですね」
という大岩の問い。それもそのはず、大体のセーフティーゾーンにあるベンチと机は木製である。ところがここのは金属製。錆びないのかね?
「そうでしょ。ただ頑丈なのはいいんだけど、うっかりぶつけたりぶつかったりした時は…」
「「「あー…」」」
痛いでしょうねー。二重の意味で。
「錆びたら木製に変えようって話なんだけど防腐剤が塗られてるからなかなか錆びなくて変えられないんだよねー」
「仕方ないね♂」
「よーし、着替えるかー」
朝からこのテンションにはついていけねーよ…。
‡ ‡ ‡
「それにしても三人とも気合入ってるねー」
着替え終わって外に出る俺たち。部長の指摘通り、俺たちは三人そろって打ち合わせ通り陸上自衛隊の迷彩服である。『動きやすい・汚れてもいい服装』って書いてあったからね。ちなみに持ってきたのは服とスカーフとブーニーハットとチェストリグだけで銃は持ってくるなと書いてあった。おそらく指定されるんだろう。
「当たり前じゃないですか!俺はこの日が来るのをどれだけ待ったことか…!」
まだゲーム開始まで一時間半くらいあるのに、このままじゃテンション上がりすぎてゲーム前に疲れてしまいそうな大西を他所よそに周囲の観察をする俺。
今まで気づかなかったがフィールド入り口の反対側に射撃レンジが五レーンある。それぞれ五十メートルづつあり申し分ない。射場と五十メートル的の所に屋根もついており、小雨程度なら問題ないだろう。なんか弓道の射場みたいだ。あれは二十八メートルだが。
「お、射撃レンジあるじゃん!部長!射撃練習の許可を!」
「銃は?」
「今回使用するのを貸しt…」
「 ダ メ で す 」
「なんでや!まだ最後まで言ってないやろ!」
「だってそれじゃぁ面白くないからねぇ…」
「「?」」
悔しがる大西の隣で俺と大岩は頭上に?マークを浮かべた。
しばらく経つと最初はぽつぽつ、開始三十分を切ったあたりからはぞろぞろと試験受験者が到着してきた。つっても全体で二十人くらいかな?
「よし、時間通りに始められそうだね」
「せやな。何か異常に気合が入ってるやつが三人ほどいるようだが…」
そしていつの間に到着していたのか副部長さんが笑顔でうなずき(可愛い)、あれは…!あの時見たボディービルダー!サバゲー部だったのか!?つーか目つけられた!
「今…の経…者はどうやら………人だけ……い」
「そうか。思ったより少ないな…」
副部長さんとシュワちゃん(仮)がこちらを見ながら小声で何か話した。怖いんだけど…。
「やべぇよ…やべぇよ…。俺たちなんかやらかしたんじゃね?」
「「少なくとも俺は…」」
お前なんかやったんじゃね?的な目線を大西に向けてみる。
「!お、おい!こっちみんな!お、俺は何もしてないぞ!」
怪しさ満点。
「いい加減吐いたらどうなんだ?証拠はもう挙がってんだぜ?」
「くっ!分かった話そう…。今朝な…」
「「今朝?」」
・・・・・・・・・・・・・・。
少しの沈黙。集中する視線。そして静寂は破られる…。
「今朝植木の花に水やり忘れた…どうしよう…」
「「小学生かお前はー!」」
早朝の山に俺と大岩のツッコミが響いた。一見滑っているように見えたがこれは面識のない新入生同士の輪を広げるのに大いに貢献していた。と後に副部長が活動日誌に記録している。
「はーい。大体準備が整ったところで説明を始めるよー。みんな話が聞きやすいところに来てねー」
部長の号令で、ぞろぞろと部長を中心に半円を描くように受験者が集合する。
当然のことだが周りの服装は学校のジャージがほとんど。俺たちみたいな迷彩服は他にいない。つまりすげー浮いてる。『ガチ勢』ってセリフがちらほら聞こえてくるし。
「なんか俺たち浮いてね?」
案の定大岩が気にしたようだ。
「心配するな。ここで浮いてもフィールドに入れば目立たなくなるさ」
「そうだな」
大西が珍しく正論を言い、俺が肯定する。
「おはようございまーす。知っての通り部長の永原です。予定通りに来てくれてとても感謝しています。えー、早速ですがルールの説明をさせていただきます」
遂に来たっ!
「ゲーム形式はフリーフォーオール。基本全員敵となりますが、受験者内での共闘をありとします。しかしゲーム前に配られる紙に書いてある指示に従い行動してください。これには受験者全員それぞれ違う指示が書いてあります。この後配られる無線機は、業務連絡やミッションを通達するためのもので、仲間同士で通信するものではありません。武装はくじ引きで決めます。すでに気付いていると思いますが今回経験者がいるので皆さん気を付けてください。記録のために頭に小型カメラを付けてもらいます。慣れないと思いますがご了承ください。ゲーム時間は五時間とします。以上です。何か質問は?」
え?最後なんて言った?五時間?嘘でしょ?
ザワ…ザワ…ザワ…ザワ…ザワ…ザワ…ザワ……「はい」
受験者の一人が挙げた。
短髪で細身。バリバリの運動部員って感じだ。
「ほとんどが初心者なのにあの三人だけ固まられるとゲームにならないと思います」
ごもっとも。けど今知りたいのはそこじゃない。
「確かにそうですね。では経験者三人は必ず単独行動をルールに加えるとしますが、よろしいですか?」
「別にかまいませんよ~。その方がゲームも面白くなりますし」
大西が返す。
「他のお二方もいいですね?」
「問題ないです」
「大丈夫です」
大西と俺も賛成する。
「決まりですね。他は?」
「いいですか?」
次の質問者に振り向く。あの無線の免許持ちの娘こだ。
「五時間って言いましたけど…、お昼はどうするんですか?」
一番知りたいことを聞いてくれた。恐らくここにいる受験者全員が知りたいことだろう。
「言い忘れました。こちらが携帯食料と水を配給するので大丈夫です」
「ありがとうございます」
「他にありますか?では…」
そこで突然隣にいた副部長に肩を叩かれ部長が振り返る。何かを耳打ちされている。
「付け足しです。この山には旧軍時代の塹壕ざんごうやトンネル、トーチカ跡が幾つかあります。利用するのは自由ですが、トーチカならまだしも、トンネルは電気が通っていないところがあり、はっきり言って少し危険なので注意してください。今度こそ以上です。ではくじ引きと配給品を渡すので一列で並んでください」
部長の号令の下、半円が崩れ一列縦帯になる列の中ほどに並んだ俺と大岩だが、なぜか大西は一番後ろに回る。
「何でわざわざ一番後ろに?」
「残り物には福があるって言うだろ?」
「あー、そうっすか…」
そのことわざが吉と出るか凶と出るか、凶と出ると俺と大岩は予想していた。
くじ引きと荷物の受け取りを済ました俺らはセーフティーゾーンでゲーム開始までの時間をつぶしていた。
「俺は猛烈にやり直しを要求する…」
隣の大西が不満そうに、いや不満感丸出しで訴えてくる。
「やり直しはきかないからそれでがんばるしかないっしょ」
「いやいやいや!いくらなんでも十禁エアコキでどうお前らに対処しろと!?」
くじ引きの結果、俺がMP5(二百連射マガジン×一)、大岩がVSR-10スナイパーライフル(三十連射マガジン×三)、大西がP228の十歳以上用のコッキングエアガン(二十四連射マガジン×四)である。
うん、まぁ予想はしてたけどここまでひどいとは思わなかったよ。だって他の人たちは普通にガスショットガンやら電動ガンなのに大西一人だけ世代の古いエアコキって、まさかあの人たち狙ってたのかね?
「これは陰謀だ!策略だ!罠だ!」
「「ないない」」
「チクショメ―!」
前は俺たちのツッコミが響いたが今度は大西の雄叫びが響くことになるのであった。
「そろそろ移動を開始してください。地図を見ながら一人ずつねー」
ゲーム開始間近、フィールド入り口の方から先輩の誘導する声が聞こえてくる。
結局大西の願望は叶わず、そのままフィールドに行くことになった。
(でもあいつ、なんかあれでもやれそうな気がする不思議)
「それでは全員所定の位置に着いたのでゲームを始めます」
支給された無線機に繋がっているイヤホンから副部長の声が聞こえてくる。
「開始五秒前、四」
高校入って最初のゲーム。
「三」
不安はある。
「二」
あいつらと協力出来ないのは正直痛い。
「一」
それでも俺たちは…、
「ゲームスタート!」
交戦(Rules Of )規定(Engagement)に従うまでだ!
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