あの日の美しかった君へ、今は手向ける花もなく

薄汚れた貧民街に雪が降る。
すべてが白く隠されていく。
白い雪の美しさは親友に似ている。
トムは、雪も親友も好きだった。

父とともに貧民街に住み、禁書を焼く仕事をするトムと、
トムがこっそり持ち出す禁書を読んで知識を得るセシル。
不条理の中で生きる2人の少年の友情は、ある日あっさりと――。

トムは、己の姿かたちや愚鈍な頭脳を美しくないと言い、
セシルは、雪が隠す醜い貧民街に己の心をなぞらえる。
互いに互いを、美しくて手の届かない貴いものだと羨みながら。

私の目には、どちらも美しいと映った。
ほかに選びようのない道を精いっぱいに生きる。
その姿は哀れでいとおしくて美しい。

救いのない物語にどうしようもなく惹かれる。
人間がぎりぎりのところで見せる顔がすごく好きで、
生ぬるいものを書いてはいられないと、胸の奥に火がともるのだ。

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