まず初めに、僕はいわゆる「異世界転生小説」を読みません。
読まないのですが、一部の人たちが異世界転生小説の「肉を両面焼きして絶賛されるシーン」や「金貨を10枚単位で数えて天才扱いされるシーン」を引き合いに出し、「作者の頭脳を越えたキャラクターは生み出せないから周囲を馬鹿まみれにして気持ちよくなるための小説が異世界転生小説」と揶揄しているのは知っています。僕はその度に「周囲を馬鹿まみれにすることで生み出された天才キャラ」代表として引き合いに出される奈良シカマル君を不憫に思いながら、「ふーん。異世界転生小説ってそうなんだ」とプリングルスとかボリボリ喰いながら適当な感想を抱いてました。僕の異世界転生小説に関する知識はその程度です。
そんな僕でも「周囲を馬鹿まみれにすることで主人公を天才にする」が、この作品のような意味ではないのは分かります。
偏差値10というビリギャルを鼻で嘲笑うぶっ飛んだ数字に惹かれて読み始めましたが、中身はもっとぶっ飛んでいました。右も左も馬鹿ばっかり。「お前らよく文明を築けたな」というレベルの馬鹿しかいない異世界で偏差値10の男が無双する物語は全編に渡って突っ込みどころしかありません。しかし物語に登場する最も頭のいい登場人物が偏差値10なので誰も突っ込んでくれません。突っ込み気質の人は読みながら「助けて、突っ込み切れない」と頭を抱えるでしょう。僕はそうなりました。
これはもしかして氾濫する異世界転生小説への警告なのでしょうか。「お前らがやっているのはこういうことだぞ」と。だとしたら作者様の聡明さが伺える巧みなやり方だと言わざるを得ません。でもやっぱりこの作品は「わーい。ちょうちょだー」とか言っていた童心に返り、ピーマンみたいに頭空っぽにしてゲラゲラ笑って楽しむのが正解な気がするのでした、まる
異世界無双小説とは接待である。
読者を気持ちよくさせるためのお話だということだ。
努力はしたくないけど特別扱いされたい。悪いやつをかっこよく倒して可愛い女の子から感謝されたい。
そんな都合のいい要求をかなえるための都合のいい世界、それが異世界だ。
最近の異世界はその辺をわかってないものが多い。
やたらハードモードで苦労する羽目になったり、かと思えば主人公が専門的な知識を使いだしたり、主人公の能力やその世界のルールが複雑で覚えるのが大変だったり、いい加減にしろといいたい。
まずはドラえもんを読んで出直してこい。
ドラえもんはのび太が何の努力をしなくても無双できるようにお膳立てを整えてくれる。名作「のび太の宇宙開拓史」は異星でのび太が無双する話である。なぜならその星の重力は地球の10分の1で住民が全員虚弱だからだ。とてもわかりやすい理由だ。
私たちはそんな風に気軽に気持ちよく読める話が読みたいのだ。
この『偏差値10の俺がい世界で知恵の勇者になれたワケ』という小説に出てくる異世界は、住人が全員バカである。だから主人公はみんなから尊敬される。わかりやすい。
しかもその上、主人公もかなりのバカである。
だから読者より頭のいいキャラは一人も出てこない。
読んでいると「その展開になるのは予想してた」「俺だったらもっと上手くやれたな」などと思うだろう。難しくて内容が理解できなかったということも無いし、主人公が老害みたいなキャラから説教されることもないだろう。
きっとこのジャンルはこれから流行るだろう。
「生きてるだけで褒めて欲しい」時代の新しい小説、これはその第一作目になるに違いない。