エピローグ
その日、わたしは竹本君と学校から一緒に帰った。
初めて繋いだ彼の手はとっても暖かくて繊細な手をしていた。
家に帰るといつものように部屋で勉強をして、姉が帰宅すると姉の部屋に向かった。
「お姉ちゃん、入るよ」
「貴美?いいよ」
部屋に入ると、
「珍しく遅かったね、それにわたしの部屋に来るなんてさ」
姉が少し驚いた顔をして言った。
「うん、ちょっと見て欲しいものがあって」
「何?」
「これ」
わたしは背中越しに隠していたスケッチブックを姉に手渡した。
「ふ〜ん、何か意味深だね?」
そう言いながら姉はスケッチブックを開いた。
「へ〜っ、また描いてもらったんだ、相変わらず上手だね、しかもこの笑顔‥貴美のこんな嬉しそうな顔、見たことないな」
「へへへ、お姉ちゃんのおかげかな」
「そんなことないよ、彼のおかげでしょ?もしかして彼と付き合うことになったの?」
「お父さんとお母さん何て言うかな?」
「大丈夫なんじゃないの?お母さん最近の貴美見て、絶対に恋してるって言ってたよ、わたしに何か知らないの?って鎌かけてきたからね」
「本当に‥大丈夫かな?」
「連れて来ちゃえば?うちに」
「え〜っ!それは‥」
「その方が安心すると思うよ。わたしも会いたいね、あの以前の貴美をずっと想ってた奇特な彼にさ」
「お姉ちゃん!」
「冗談だよ、貴美をこんなに想ってくれている彼なら絶対に大丈夫だよ」
「ありがとう、お姉ちゃん」
その日からわたしと航は付き合い始めた。
父も母も航に会って、喜んで応援してくれている。
わたしの放課後の日課は美術室に行って自分の勉強をすること、航は黙々と絵を描いている。
それぞれ道は違うけどお互いの夢の実現のために日々頑張っている。
学校から一緒に帰ることがわたし達のご
「何なの一体、二人してさ?校外学習の同じ班から二組もカップル誕生って‥どう言うこと?」
昼休みの教室で、香穂がわたしと那由に呆れた顔をして声を上げた。
「何なのって言われてもね、彼氏ができたらいけないの?」
那由が香穂に応えた。
「那由があの日下君と付き合うなんて‥まさかの展開だね」
「‥」
「貴美も貴美だよ、竹本君と?そんな素振り少しも見せないでさ!」
香穂の矛先が今度はわたしに向けられた。
「だって‥」
「大体、貴美のイメチェンのキッカケが竹本君の描いた肖像画だったなんて、羨ましすぎるよ!」
香穂はまくし立てて言葉を続けた。
「竹本君、わたしも描いてよ」
「えっ、島本さんを?」
横で聞いていた航が思わず声を上げた。
「心がこもってなくてもいいからさ、描いてよ」
「それはちょっと‥」
「こら香穂、航が困ってるでしょ、無理言わないでよね」
「竹本君さ、親友二人を彼氏に一遍に取られたわたしの気持ちも察してよね」
「取られたって‥わたしと那由は香穂の親友に変わりないよ、那由そうだよね?」
「そう、そう、香穂も早く彼氏見つければ良いんだよ、木村君なんてどう?そうすれば校外学習から三組成立だけど?」
那由が能天気に香穂に言うと、
「木村君は勘弁して‥」
香穂が苦笑いをしながら答えた。
「じゃあ、こうしない?竹本君にわたし達三人を一緒に描いてもらおうよ、友情の証にね、貴美がいれば良いんでしょ?」
那由が提案した。
「そんなの嫌だよ、絶対貴美を一番綺麗に描くに決まってるでしょ!」
香穂が声を上げた。
「そんなことしないよ、三人一緒なら描かせて欲しいな、みんなの友情を壊すようなことはしないでちゃんと描くから、三人とも綺麗なんだから大丈夫だよ」
航が香穂に答えた。
「航、いいの?」
「もちろん、三人の友情の証になるならね」
「じゃあ、今日の放課後はみんな美術室に集合ね」
そう言ってわたしは航を見て笑った。
ー完ー
穏やかな午後の美術室 神木 ひとき @kamiki_hitoki
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