その歳月は、愛する人にめぐり逢うため

日本の人魚伝説の一つを軸にした悲しくて切ない恋模様に、不気味な「鬼」の存在が絡み合い、ただの恋愛小説では終わらない、多くの謎を秘めた近未来のファンタジー。

得体の知れない「鬼」と呼ばれる化け物に村を襲われ全てを失った娘と、「鬼」を相手に戦い続ける自警団の男。その男に買い取られた娘は、その男が、夢の中に現れる「愛するあの人」にそっくりだと気づいて……

二人が出逢った途端に恋に落ちてしまいそうな設定だが、実は、男には誰にも知られてはならない秘密があった。表題の「八百年」という言葉が暗示する男の秘密を謎解きながら読み進めると、一層物語が深みを増す。その秘密ゆえ、男との叶わぬ恋に身を焦がす娘の心情が、歯痒いほどに切ない。

途中、心が痛む場面も出てくるが、どこかにきっと救いがあるはずと信じて物語を追って行くと、希望の光が見えてくる。口下手な主人公二人の焦れったい愛情表現に心が癒され、思わず、にやりとする場面も用意されている。

人魚伝説をご存知の方もそうでない方も、じっくり、ゆっくりと「八百年」の重みを味わいながら、二人の恋の行方を静かに見守って頂きたい。

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