“鬼”という存在によって故郷も家族も声も失った少女と、並外れた強さと重い秘密を持つ自警団長の男の恋物語です。
あらすじと恋愛要素の素敵さは他の方のレビューもあるので割愛します。
個人的に「ここにも注目してほしい!」と思うところは世界観とそれに伴う描写でしょうか。
ロンが抱える秘密。それが明かされる際の、神秘的でどこか畏怖を感じるような美しい風景と心理描写。合間に挟まれる美味しそうな料理のワンシーン。
そして何より「何故“鬼”というものが主人公達の世界に存在するのか」「そもそもこの世界は“何”なのか」という世界観の基盤部分もまた最高なんです。
本作だけでも100%楽しめるのですが、このレビューで少しでも興味を惹かれた方は是非同作者様の『きっとあなたは偶然ではない』も読んでみてください。そしたらこの小説の面白さは200%に跳ね上がります!
じれじれともどかしさと切なさを含んだ恋愛小説としても、しっかりとしたファンタジー小説としても楽しめる『君に八百年の花束を』。どうぞご一読ください。
日本の人魚伝説の一つを軸にした悲しくて切ない恋模様に、不気味な「鬼」の存在が絡み合い、ただの恋愛小説では終わらない、多くの謎を秘めた近未来のファンタジー。
得体の知れない「鬼」と呼ばれる化け物に村を襲われ全てを失った娘と、「鬼」を相手に戦い続ける自警団の男。その男に買い取られた娘は、その男が、夢の中に現れる「愛するあの人」にそっくりだと気づいて……
二人が出逢った途端に恋に落ちてしまいそうな設定だが、実は、男には誰にも知られてはならない秘密があった。表題の「八百年」という言葉が暗示する男の秘密を謎解きながら読み進めると、一層物語が深みを増す。その秘密ゆえ、男との叶わぬ恋に身を焦がす娘の心情が、歯痒いほどに切ない。
途中、心が痛む場面も出てくるが、どこかにきっと救いがあるはずと信じて物語を追って行くと、希望の光が見えてくる。口下手な主人公二人の焦れったい愛情表現に心が癒され、思わず、にやりとする場面も用意されている。
人魚伝説をご存知の方もそうでない方も、じっくり、ゆっくりと「八百年」の重みを味わいながら、二人の恋の行方を静かに見守って頂きたい。