呪いのヴァイオリンが奏でる奇妙な独奏曲

大学で音楽を学ぶKは、一人のうさんくさい男に声をかけられ、彼が探しているヴァイオリンに隠された数奇な遍歴を打ち明けられる。

そこで明かされるのは、偏屈で演奏の腕はないのに音楽理論に一家言持つ光太郎、彼の親友で優れた腕前を持つ橘、そして学内でもズバ抜けた音楽の素養と美しい容姿を持つ才媛、音無嬢、この三名の間で繰り広げられる愛憎劇だった。弾く者の演奏に異様な魔力を与えるヴァイオリン、そしてそれに影響されるかのように徐々に人間性を変容させる若者たち、ゆっくりと確実に破滅へと導かれるストーリーと、これだけでも充分面白そうなのだが、しかし、本作で何より注目すべきはその文体だろう。

作者は『ドグラマグラ』『少女地獄』などで知られる夢野久作のパスティーシュと言っているように、語り手の口から放たれる不気味なのにどこかユーモアも感じられる言葉の数々は、まさに夢野久作の怪しげな雰囲気を彷彿とさせる一品となっている。

まずは試しに冒頭の数行を読んでみてほしい。この文体に惹かれたという方は、最後まで読んでみれば満足すること請け合いだ。

(新作紹介 カクヨム金のたまご/文=柿崎 憲)

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