無視してはいけない、無にしてはいけない。確かに、存在しているのだから。

  • ★★★ Excellent!!!

「ありのままに」「ありのままでいい」
ちょっと前に、そんな言葉をよく耳にした。
無邪気に口ずさむ子供たちや大人たちをたくさん目にした。
自分だって、幾度となく口にしたと思う。その言葉の重さなんて、欠片も考えずに。

周りから肯定されないと知っている、否定されるか、なかったことにすらされる自分を、どうやって、そのままでいいなんて思えるものか。
一体どれほどの人たちが、自分を隠し、偽り、自分自身や周りを欺いて、どうにかこうにか過ごしていることか。
ありのままの姿を見せることの、難しさ。自分が自分であることの、壮絶な苦しみと痛み。
何もかもを欲しがっているわけではない。ただ、みんなと「同じ普通」が欲しかった。けれど、どうしても手に入らない。そんな彼らを、身の程知らずの欲張りだなんて思えない。
もがき苦しむ主人公の姿が痛々しくて胸がヒリヒリした。
スタイリッシュ(と言っていいのかわかりませんが)でウィットに富んだ文章を読みながら、自分の中に去来するどうしようもない憤りというか、説明しがたい悔しさでグラグラとする頭の中には常にフレディの歌声が響いていた。

主人公の母親、三浦さん、幼馴染、他にも強くて優しい人たちの存在に救われた。
最後まで読み切って、主人公の強さが眩しかった。
世界はまだまだ、ありのままでいようとする人たちに優しくはない。けれどいつか、このお話に出てきた「BL星」とまでは行かないまでも、多種多様な「普通」が「普通」になればいい。
あぁ、違うな。なればいい、じゃなくて意識的に、そうしていかないといけないな、と強く思わせてくれた。とても素敵な小説だった。

想像や空想で物語を描くことはできる。
行ったことがなくても、宇宙の果てや見知らぬ異世界の物語をリアリティをもって描くことはできる。
けれどこういった心の内を描いた物語は、筆者様の経験無くして綴ることの出来るものではないと思う。知らない感情を想像で書いていたとしたら、きっとこんなに引力を持たないだろう、と。
ご自身のであろうと、誰かに聞いたものであろうと、筆者様が心を寄せて知り得た、そして自分の中に落とし込んだからこそ描ける感情だろう、と。
けれどそれをどう表現するかは、書き手の力量に大いに寄る所だと知っている。それに関してはただただ、筆者様の筆力に惚れ惚れした。

***

やっと読めました。某氏にオススメ頂いて、ずっと読みたいと思っていました。
読み始めると、ぐいぐい引き込まれて突っ走りそうになるのをぐっとこらえ、じっくりゆっくり、読ませて頂きました。
本当に、読めてよかった。純くん達に出会えてよかった。
これほどまでに熱量を持った思いに、触れさせて頂いてありがとうございます。
少しでも多くの人に、読んでほしい。素直にそう思います。

この気持ちを独り占めしたくなくてレヴューさせて頂きましたが、取り留めない感想文となってしまいました;
自身の文章力を恥じ入るばかりです。苦笑。

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