やっと、読み終えることができました。
文章を読むのが得意でない自分にはやや難解で、読み進めるのにとても時間がかかってしまったように思う。
けれど読み心地は決して堅苦しくなく。ただひたすら丁寧に、その緻密な世界観と登場人物たちの繊細な心情が描かれていて惹き込まれた。
衣装や食べ物、生物や鉱物に関するくどいまでの描写は、徹底して作り込まれた世界を読者に鮮やかに見せつけ、そこに生きる人々の生活をリアルに感じさせてくれる。
同時に、描かれるたくさんの登場人物と、それぞれの思い。多くの人物にスポットを当てながら、それでもきちんと主人公達が主軸に置かれているのがわかる。
(当然のことなのだけど、登場人物が増えるとブレがちな部分だと個人的に思っている)
斜陽の帝都で出会った少女と青年が惹かれ合い、思いを交わし、そして互いがかけがえのない者と知りながら、時代の大きなうねりの中で分かたれることになる。
逃れることの出来ない血統に因る、自らの責務を全うしようとする青年。
共に在る為に自ら力をつけ、混乱の中から愛しい人をつかみとる少女。
そう、この物語におけるヒーローは、紛れもなく主人公である少女ラナ。
穏やかな日常、偶然でありながら必然的な出会い、そして何もわからぬまま巻き込まれ、流された先、新たな土地での新生活。
けれど奪われたことに腐ることなく努め、着実に生き抜く力を身につけ、秘された過去に近づき、やがて大切なものを自らの手でつかみ取る。
何も知らなかった少女が困難の中で成長していく様は本当に眩しくて、愛おしい。
勿論、救われるカタチとなる青年もまた、最後にはとても素敵に成長してくれていて、あぁ、よかったなぁ、と。
途中、やるせなさを感じさせられる部分もあるが、とても爽やかな気持ちで読み終えることができた。
じっくりゆっくり、世界観に浸りながら物語を楽しみたい方は、是非。
作者さま、素敵な物語をありがとうございました!
(乱文失礼いたします)
まず、緻密に練られた壮大な世界観に圧倒されます!
しかし難解だと尻込みすることなく、芸術的なまでに美しい筆致に導かれるがまま、気が付けばシルディアナの世界に惹き込まれておりました。
見たこともないファンタジーの世界、なのに目に浮かぶように手に取るように、視覚からその世界の映像美が感じられます。
ストーリーも正統派、と思わせて数々の伏線が張り巡らされ、それが一気に回収された時は声にならない悲鳴を上げてしまいました。一度ならず、何度も!
紡がれるのは、交錯する想いが深い悲しみの連鎖を生む物語。
けれど悲壮感漂う中にも、爽やかな風がそっと頬を撫でるような極上の優しさが胸に染み渡ります。
私の拙い言葉では伝えきれませんが、この物語に出会えて良かった!
これからもずっと忘れることができない、心に深く刻まれた作品です。
懐かしいほどの正統派異世界 Serious Fantasy。
ファンタジーの多くはかつて科学の洗礼を受けることが気品上等とされた時代があった。
そういうおとぎ話を子供だましの言い逃れで許さない人々によって、異世界が少し窮屈になったのも事実だが、一方で実世界の様々をおとぎ話に投影することで、とてつもなく混沌の陰影彩りが増えたことも間違いではない。
美しく目を活かしつつ刻みあげた象牙細工のような艶と滑らかさそして肌目の残る世界を舞台にした冒険譚。
そう云う異世界SFこそがサイエンス・ファンタジーの末裔。
偉大なる竜騎士や光の王の血統に連なる末裔と私はこれを認める。
中世的な世界観かと思いきや、それを鮮やかに切り裂く、近代的な文明の利器。不思議な精霊と、メカニカルな人工物の共存する近現代ファンタジー。
それが無理なく透き通って、一個の世界として成立するのは、風の音まで聴こえてくるような緻密で繊細な描写と、説得力のある設定。
木材や鉱石に至るまで、この世界に確かに息吹いているのを感じます。
そこに生きる、人の心も。
途中、衝撃の展開により臓腑をえぐられるような衝撃がありますが、物語を紡ぐにあたり、重大な意味を為すことになるでしょう。
読み、ふと眼を現実世界に眼を戻しても、まだそこかしこに、火の、光の、風の精霊がくるくると踊っているような気がします。
ただただ、叫びたい。
フェーレス!!