第4話 上映だオラァ!!

 小高未希です。あれこれあって、芹沢先輩が着ぐるみ担当になりました。

 芹沢先輩が着ぐるみに入ってはミイラになりますが、慣れてしまったのか着ぐるみの中でミイラになっても動くようになりました。最初聞いた時にはコワッ!! って思っちゃいました。


 そんな訳ですが、先輩達と何とか撮影を開始。今は怪獣が海から出現するシーンを撮っています。

 芹沢先輩曰く、『怪獣は海から現れて海に帰る』というジンクスがあるようです。古来より海には常世とこよがあって、そこには神がうんたらこんたら……まぁ、難しい話ですが、怪獣が海から現れるのは深い意味があるんだそうです。


 ……それはいいとして、何もここで撮影しなくても……。


「コボッ!! 水が入った!!」

「我慢して下さいカットごとに水を抜くので」


 海という名の、公園の湖での撮影。

 浅瀬で綺麗な湖の中を、芹沢先輩が着たジャゴソルが泳いでいます。泳いでると言っても、浅瀬なので水の中を歩いているって感じですが……。


 何故海でやらなかったのは理由があるんです。まず第一に、海に行く予算が尽きていた。第二に、海は波が激しいので着ぐるみが攫われやすい……という事です。

 そのジャゴソルを私がカメラで撮影していますが……ハッキリ言って恥ずかしいです……行き来する周りの目が痛いです。


「ママー、あれ何してんのー?」

「ああ、あれはね、お姉さん達が常人には理解出来ない変態プレイをしているのよ」

「へぇ、面白いのかな?」

「あの人達にとっては面白いかもしれないけど、他人の目には面白くなんともないわ。むしろ嘲笑う物よ」


 お、お母さん!? 子供に何を教えているんですか!? 普通そこは「見ちゃ駄目よ!」じゃないですか!?

 うう……やっぱり端から見れば酷いでしょうか? しかもプレイって……。


「はいカット着ぐるみの水を抜きますよ」

「あっ、はい」


 私とオカシナさんでジャゴソルを引き上げ、背中のファスナーを開けました。

 ドバーと流れ出る水の中で私は見ました……。それはもう地の文で描写出来ない位の、おぞましいミイラ姿の芹沢先輩が……。


「いやぁ、もう慣れちゃったわ。ミイラ姿になっても悪くないわ」

「……」


 どこから突っ込めばいいでしょう……。ミイラ姿になっても平然と喋ってますよこの人。

 芹沢先輩って……東宝高校において人気者だったんです……。それがゴメラの被り物と下着姿の変態衣装をしたり、こうして禍々しいミイラになったり……。

 芹沢先輩のイメージが崩れました……今更ですけど……。


「それにしても大変じゃないですか? そろそろ休憩をとった方が……」


 ジャゴソルのファスナーを閉めた後、その巨体がまた湖に向かいます。

 再び撮影開始だそうですが、そろそろ休憩が必要だと思うようになりました。


「何言っているの。この映画は明日公開ってなっているから……」

「…………はっ!? 聞いていないですよ!?」

「撮影が忙しくて言いそびれたわ……」


 そんな大事な事を……。しかも明日って……。

 それまでに間に合うんでしょうか……?


「大丈夫なんですか? そんなミイラ姿になってまで……」

「何言っているのよ。私達は怪獣オタクよ、怪獣映画に対して熱い愛を持っている。例え締め切りが近付こうとも、最高の怪獣映画を作るまでよ。

 それが怪獣オタクってもんなの」

「……」


 芹沢先輩は変態です。変態なのですが、その熱意は紛れもなく本物です。

 だからこそ、先輩が変態でも私は逃げなかったのだと思います。例え変態なプレイをしていても、先輩と共に怪獣映画を作ろうと……。


 私は怪獣ニワカです。怪獣のあれこれなんて分かりません。ですが、変態な先輩方と一緒にいれば、その怪獣への熱が高まっていきます。

 だとするなら、最後まで撮るまでです!


「はい変態先……芹沢先輩! 明日までに撮りましょう!」

「何か言わなかった?」

「すいません、何でもないです。ところで黒木先輩はいずこに……」


 前回の撮影でお尻を怪我した黒木先輩ですが、それ以外は大丈夫そうなので怪獣映画撮影には参加しています。

 その先輩がいつの間にかいなくなって……。


「黒木さんはある小道具を使ってラグビー部と一緒にある撮影をしています心配はいりませんよ」

「そうですか……」

「では海の撮影が終われば後は編集ですので頑張りましょう」

「はい……!」


 これが終わったら、撮影した物を全部切り貼りする編集に入ります。それが終わったらミッションコンプリート。

 長い道のり……遂に最終決戦です!




 ===




 そんな訳で夜の特撮部。私達は仕事に追われていました。

 内容は編集作業とCG作成。主にCG作成担当のオカシナさんが三台のパソコンを使って、戦車や潜水艦などのCGを作成。さらにはその爆破CGも完成させていったのです。

 その姿はまさしく千手観音。まるでオカシナさんの背後に無数の手があったかのようです(錯乱)。


 それで私を含めた三人は撮影したシーンの切り貼り。中には上映時間を考慮して泣く泣くカットされたシーンなんてありましたね。

 逃げる群衆の一部のシーンとか、破壊シーンとか。そうした未放映シーンは後ほど編集してネット状にアップするというのが、ゴメラの被り物をした芹沢先輩談。


 夜なべして頑張りました。そして私達は……完成したのです!


「「「やったどおおおおおお!!」」」


 外は既に夜明け。被り物をしている芹沢先輩は分かりませんが、私や黒木先輩達の目にはクマが発生していました。

 私、これでも年頃の娘ですが……でもまぁ、何だか清々しい気分です。


 そんな訳で上映時間は放課後。芹沢先輩の巧みな宣伝(女子生徒に広めるよう伝えるなど)により、それなりの数のお客さんが入ってきました。


 部室に用意されたブルーシートを座るお客さん達。私達が映画にも使うスクリーンを用意している間、芹沢先輩(服装はいつも通りの制服。久しぶりに見たかも)がマイクで語っていました。


『ええ、お集まりいただき、誠にありがとうございます。私達特撮部が手塩に掛けて作り上げた『ジャゴソル』――遂にこの日まで完成させる事が出来ました。

 文字通り撮影は大変だった物です。ですが私達は、自身の胸の内に秘める熱い怪獣愛に従って、今日まで完成させる事が出来ました。

 それでは『ジャゴソル』、刮目せよ!!』

「ヒャッハアアアアアアアアアア!!」

「ヒャハハハハハハハ!! 怪獣映画だああああ!!」

「ヒィイイイイハアアアアア!!」

「怪獣映画は消毒だあああああ!!」


 完全に世紀末の悪党です、本当にありがとうございました。

 まぁ、それは置いといて部室が暗くなったと同時に、黒木先輩がカメラのスイッチを押します。そしてスクリーンに、私達の結晶が上映されるのです。




 ===



 20××年11月3日。


 人工衛星が太平洋に眠る謎の巨大物体を発見。その正体を確かめるべく、自衛隊の潜水艦がその海を渡っていく。

 

『確かこのポイントだな……』

『ええ、反応は……ありました。この真下……約80mの深海にいます』

『了解。ただちに無人探査機を……むっ!? 何だこの揺れは!?』

『きゅ、急に浮上しました!! うわああああああ!!』


 爆発する潜水艦。その巨大な影は、真っ直ぐに日本……東京へと向かっていった。

 

「せ、先輩! あれを!?」

「何あれは!?」


 怪獣の被り物をした半裸の少女が、後輩らしい少女の指差す方向を見る。

 その海から現れる、巨大な何か。濁った肌色の皮膚、煌々と輝く緑色の両眼、肩の黄色く光る棘、そして鋭い牙。

 怪獣だった。人智を超えた異形の存在。人間如きちっぽけな存在が面向かう事は出来ない、荒ぶる神。


「ウオオオオオオオオオオオンンン!!」


 怪獣は都市を、人類の文明を破壊していった。その目的は? 何の為に? 人間が怪獣に何をしたのか?

 怪獣は答えない。いや、仮に知能があっても答える事はしないだろう。怪獣という超越存在の考えを、下級存在の人類に分かるはずないのだから。


 ――自衛隊基地。


「本日をもって、巨大生物のコードネームは『ジャゴソル』だ。今、ジャゴソルは東京の東宝高等学校を襲撃しようとしている。ただちに戦車隊及び戦闘機隊を展開させよ!!」


 司令本部の指示。今、学校の前には多数の兵士と戦車。戦闘機が配置されている。

 そして彼らは、迫り来る巨大生物を発見した。


「前方にジャゴソルあり!! このままでは!!」

「狼狽えるな!! 続けえええええええ!!」

「「「「うおおおおおおおおおおおおお!!」」」」


 夜の闇の中、迎え撃つ自衛隊。

 戦車の砲塔が火を噴く。戦闘機のバルカンが唸る。しかしジャゴソルは少し怯むだけで、一切ダメージが入っていなかった。

 さらにその棘が、その腔内が紫色に発光していく。そして、ジャゴソルが光を放った。


「「「「キャアアアアアアアアア!!」」」」


 女の子じみた悲鳴と共に、自衛隊が爆発。さらには街すら火に飲み込まれていく。

 先程まで賑わっていた街は、一変にして阿鼻叫喚の世界に。その地獄の中で、ジャゴソルの禍々しい咆哮が轟く。


 もはや人類は、荒ぶる神の洗礼を受けるしかないのか。


「これまでか……」

「いえ司令。ひとつだけ方法があります」


 司令に提案する一人の男性隊員。その彼の両手に握られているのは、巨大な円筒状の機械。


「それは……」

「大気破壊剤……コードネーム『アトモスフィアデストロイヤー』。私が対テロ装備として開発した新兵器ですが、今からこれを使う事にします」

「一体どんな効果があるというのだね?」

「地上で使用すると、半径50キロ以内の万物が原子崩壊する代物です。もちろん発動させた者ですら消滅させる事でしょう。

 なので、これは私一人だけが使います」

「やめろ! そこまで犠牲にする事など――あべし!!」


 司令に腹パンをする男性隊員。その彼の表情は、決意その物が具現したかのような物だった。


「お許し下さい。しかしこの黒木徳佐。ただでは死にません」


 ――やがてジャゴソルが暴れる街に、その黒木徳佐隊員が現れる。

 彼は、破壊を行うジャゴソルへとアトモスフィアデストロイヤーへと掲げる。荒ぶる神を、自ら人身御供になって鎮める為に。


「さぁ、消えるがいい。ジャゴソル」


 アトモスフィアデストロイヤーが、作動された。

 建物が、車が、電柱が、全てが塵へと還っていく。そしてジャゴソルも、怨念を纏った断末魔と共に消え去っていく。


 20××年11月4日


 日本を震撼させた巨大怪獣は、一人の人間の人身御供によって消え去っていった。

 しかし忘れてはならない。人間が意味なき発展をした場合、二頭目のジャゴソルが現れるのかもしれない。


 人間と怪獣は光と影……表裏一体なのだから……。


 ――終――

 



 ===




「……ウオオオオオオオオオオオンンン!!」


 怪獣の咆哮じみた歓声が、特撮部に湧き上がってきました。ついでに拍手も。

 実は撮影を携わっていた私自身も拍手をしていました。生みの親とは言え、こうして完成された怪獣映画を見るのは感慨深いです。

 シン・ゴメラで感じた感動が、今復活する事が出来たのです。


「しかし私と別行動をしていた黒木先輩のしていた事ってあれだったんですね」

「まぁ、いいじゃない。私達も出れたし」


 ラストでジャゴソルを倒したシーン。あれが黒木先輩とラグビー部が秘密裏にやっていた事らしいです。

 何か最後持っていかれた気分ですが、それでも私や芹沢先輩も参加出来たのでまぁいいでしょう。


 ただ撮影の時でも、半裸姿なのはどうかと。


「……そうですね」

「ああ横から失礼実はジャゴソルが好評なので次は正義の味方をする亀型怪獣の映画を撮ろうと思いますが」

「これで来年度の予算はゼロだな。協力してくれるか、小高」


 その時やって来たオカシナ先輩と黒木先輩。ていうかまた映画ですか。

 ……でも、私の答えは決まっています。


「はい! 一緒に頑張りましょう!」


 ――怪獣というのは、子供っぽいと馬鹿にされる事もあります。

 しかしその怪獣の歴史は六十年に続いており、その間にバリエーション溢れる怪獣映画や特撮ドラマが放映されました。

 これは怪獣がいかに愛されているのか示していると言っていいです。ですから怪獣が好きだからって、ひた隠しする必要はありません。

 胸張って好きと言えば、怪獣達も喜んでくれるのだから。




 ――終了――

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怪獣映画を撮ろう! ミレニあん @yaranaikasan

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